強者弱者(60)

大崎と目黒

 大崎は海に近く、東京の中に在りては寧ろ暖かき部分に属す。唯、御殿山と桐ヶ谷の岡との間は冬季西風の通路に当るを以て寒気強し。製氷所は氷川の森を負うて水田にのぞめる陰湿の地を選みたり。すべて風の通路には地勢により之に沿うて無風の地域を生ずること猶ほ急流の時に淀みを生ずるが如し。製氷所と目黒川を距てゝ相対する数畝の地、土俗呼んで亀の子島といふ。山を負ひ川を控へ、温暖春の如く、厳冬尚ほ芳草の離々たるを見る。果然、目黒川の流域は冬季西風の通路たる事によりて寒厳甚だしきを覚ゆるのみ。東京全体の地勢より見て寧ろ温暖の地なり。土俗権之助坂の寒さを以て東京一といふは全く誤れり。

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前回からの続きのような内容です。

目黒の亀の子島については、秀湖が「駅夫日記」という小説の中にも書いています。それを紹介したブログも見つけたので、こちらでも確認してみて下さい。↓

http://blog.livedoor.jp/rail777/archives/51591690.html

目黒に住まわれている古老に訪ねれば、あるいはもっと詳しいことが判るかもしれません。

「芳草」は一般的に春の草のこと。「離々たる」たるとは、枯れずに青々と連なっているという意味でしょう。

目黒の権之助坂が東京一寒い、という謂われがあったらしいこともこの文章から窺い知れます。どうですか、目黒の皆さん。

 

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