強者弱者(63)

浅春の野花

 春寒料峭たり。立春以後日漸く暖かなれど風弥よ寒し。野に鍬形草の花を見る。大さ、米粒ばかり。五弁にして白に浅黄の縁を染め、情調わすれな草に似たり。此頃より水近き小径のほとりに咲き出でて初夏の候に及ぶ。鍬形草と前後して薺の花咲く。春も近しと思ふにまた新しき愁を覚ゆ。
 芍薬の若芽出づ。芍薬の風致は花にあらずしてこの若芽に在り。其霜解けの土を抽きて地に一点の紅を点じたるこそよけれ。二三寸ばかり伸びて形水鳥の足に似たるもよし。

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「料峭」(りょうしょう)とは、春風が肌にうすら寒く感じられる様を言います。季語は春。

鍬形草が語られていますが、これは疑問ですね。「五弁にして」とありますが、現在クワガタソウという和名で知られる植物は四弁で、ゴマノハグサ科の植物。この描写には当て嵌まりません。
開花時期も早過ぎるように思います。

早春の野に咲き、忘れな草に似ているということからすると、これは現在ではキュウリグサと呼んでいる野草ではないかと思われます。大きさが米粒ほどというのも該当します。
キュウリグサはムラサキ科キュウリグサ属の植物で、同じ科のワスレナグサ属とは近縁。見た感じも良く似ています。

これが秀湖の単なる勘違いなのか、当時の呼び方なのか、あるいは地方名なのかは判りません。
例えばキュウリグサにはタビラコという別名がありますが、このタビラコにしてもキク科の植物に同名のものがあります。

「薺」は「ナズナ」。別名ペンペングサで、これも早春の野を彩るお馴染の花。

「芍薬」(しゃくやく)は花より若芽に風情があるという所は如何にも秀湖で、その捻くれぶりが良く出ていると思います。

 

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