強者弱者(66)

 筍市に上る。目黒近在にては市内割烹店の需めに応じ既に一月の始めより筍を掘る。地を卜し鍬を入れて巧みに掘り当つるを見るに長さ漸く三四寸なり。味美なりといふ可からず。
 吹きすさぶ風寒けれども一味の暖さを覚ゆ。榛の梢漸く色づきて遠く鳶色に煙る。隴上雨降るごとくに青く、麦の畑、一望唯樺色の野を劃して、色彩最も鮮やかなり。

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筍(たけのこ)の話題です。

100年前頃までは、目黒は筍の名産地でした。サンマだけじゃないんですよ。こんなサイトもあります。↓

http://www18.ocn.ne.jp/~bell103/takenoko.html

ここでも紹介されていますが、現在では環状七号線沿い、碑文谷の「すずめのお宿」緑地公園に僅かに痕跡を留める程度です。

「卜」(ぼく)は占いの意味がありますから、この辺りだろうと当たりをつけて筍を掘るということ。この季節の筍は、味というよりも神事的な意味合い、「粋」を重んじた気風があったのではないかと想像されます。

「榛」は「はんのき」。湿地を好む樹木で、元々は湿地帯が多かった東京には多く自然に自生していました。現在では榛を見られる場所はごく僅か。目黒なら自然教育園の中に残されている位でしょう。

榛はミドリシジミの食樹。江戸時代の東京各地は、梅雨時ともなればメタリック・グリーンを煌めかせるゼフィルスの乱舞が見られたことでしょうに。チョッと残念ですね。

 

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