強者弱者(67)

蟇の恋

 晴れて風なき夜、蟇の恋する声を聞く。冬の日の長き寂寥に倦みつかれたる時、低くかすかなる声、そぞろに若き人の心をそゝる。山の手にありては、風なぎて暖き日、溝近き路の傍に昼もなほ其姿を見ることあり。

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最近は蟇(がま)蛙の声を聞いて春を感ずるという風情はほとんど無くなりました。それでも春先、冬眠から醒めた蟇が恋心に誘われて巣穴を出で、交通事故に遭う姿を見ることもあります。
こんなに開けた都会の何処に彼らが生活を営む場所があるのかと不思議に思いますが、自然は我々が机上で論ずるよりはしたたかだ、と言うことでもありましょう。

蟇に限らず、雪が雨に変る頃から自然界は恋の季節に入ります。この文章から100年後の現代、猫の声やスズメの囀りに心をそそられるのは私だけではありますまい。

「溝」は「どぶ」とフリガナが添えられています。最近は死語になったかの感がある「どぶ」。私の子供の頃は家の前は何処でも溝があり、日常会話では最も頻繁に使われた言葉でしたが、最近は耳にしなくなりましたねェ~。
「溝」を「みぞ」と読んでも、「どぶ」とは読めない人も多いでしょう。

 

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