日本フィル・第255回横浜定期演奏会

いやぁ、参りました。凄いシベリウスでしたね。

横浜定期は会員ではないのですが、2010年春シーズンは見逃せない会が多く、会員になろうか迷ったほど。結局は単券で行くことにしましたが、その第一弾が昨日のラザレフです。

日本フィルのシベリウスと言えば、創設指揮者である渡邉暁雄以来の伝統があり、今年は渡邉氏の没後20年に当る節目の年。現在の首席指揮者であるラザレフが振ればどうなるか、真に興味津々のコンサートではありませんか。

シベリウス/交響詩「トゥオネラの白鳥」
シベリウス/ヴァイオリン協奏曲
     ~休憩~
シベリウス/交響曲第2番
 指揮/アレクサンドル・ラザレフ
 ヴァイオリン/渡辺玲子
 コンサートマスター/木野雅之

このところの日フィル横浜定期は様々な要素があって大人気の様相、この日も満席ではないものの客席は熱気を帯びていました。
ラザレフと日本フィルは2週間に亘る九州ツアーをこなしてきたばかり、マエストロとオーケストラのコラボレーションは急速に上昇カーヴを描いているのは明らかでしょう。この日のシベリウスで、その成果を見事に突き付けてくれました。

冒頭のトゥオネラからして素晴らしい響きがみなとみらいホールに鳴り渡ります。前回のブラームスもそうでしたが、このコンビの創り出すオーケストラ・サウンドは席の如何、ホールの如何を問いません。どこで聴いてもスコアの細部に至るまでが透徹して聴こえてくる。
ここではイングリッシュ・ホルンの物悲しい響きが、瞬時に横浜をフィンランドの湖水地方に変えてしまうのでした。

2曲目のヴァイオリン協奏曲が、また圧巻。名手・渡辺玲子の目指す音楽の方向とラザレフのそれは見事にマッチしていると感じられました。

何よりテクニックが凄い。全体に速目のテンポを志向するのはソリストも指揮者も同じ。そんな痛快なテンポの中で、例えば第3楽章に度々登場する3度の上向スタッカートを完璧に弾き、しかも難しさを微塵も感じさせない技術には完全に脱帽せざるを得ません。

ラザレフ/日フィルも、冒頭の pp のトレモロをほとんど聴こえるか聴こえないかの弱音に落とし、mf で凛として入るヴァイオリン・ソロを見事に引き立てるのでした。

メインの第2交響曲の名演は、前半を忘れさせるほどの出来栄え。ラザレフのシベリウスはどうなのよ、という疑問など完全に吹っ飛び、私が聴いた数知れぬシベリウスの中でも第一に指を折るべきハイ・レヴェルの演奏を実現して見せました。

何度でも言いますよ。ラザレフ恐るべし。

先ずテンポが速い。早いけれど素っ気ないものでは決してなく、要所要所では聴衆が聴きたいタップリとした音楽を高らかに歌う。

第3楽章やフィナーレでのティンパ二の豪打も無機的にはならず、交響曲の姿をより凛々しく立ち上げる、という具合。加えてオットー(オッタビアーノ・クリストフォーリ)の完璧なトランペットが炸裂し、私はただただ仰け反るばかり。
それでいて普段は聴こえて来ないような和声の支えとなる通奏音もクッキリと聴こえてくる様は、正にスコアを徹底的に読み尽くし、入念なリハーサルでオーケストラ・サウンドを磨き上げるラザレフの手腕の賜物に違いありません。

この演奏を聴きながら私が想いを馳せたのは、皮肉にもシベリウスが譜面に書きつけた帝政ロシアの圧政に反発する怒りと抵抗です。もっと自然を感じさせる穏やかな演奏、ゆったりと歌う美しいシベリウスも可能でしょう。しかしラザレフが表現してみせた若きシベリウスの熱血こそ、この作品の本質ではないか、と。

演奏され過ぎる嫌いのある第2、某カリスマ評論家が愚作とまで貶したこの名曲に新たな光を当てて見せたラザレフに脱帽です。

例の如しのカーテンコールに応えたマエストロ、何とアンコールに「悲しきワルツ」を。これがまた尋常なアンコールではなく、冒頭のピアニシモはほとんど聴こえないほどの弱音で開始されます。

そう、これは瀕死の主人公が最後の力を振り絞って踊るワルツなのでしたね。こうでなくちゃ。この演奏を聴くと、他のものは聴けなくなってしまいそうなヴァルス・トリステッスじゃありませんか。
私はラザレフと日本フィルの最初の出会いとなったショスタコーヴィチの11番シンフォニーを思い出してしまいました。

珍しく終演後、ホワイエで出演者による懇談会が行われました。ラザレフ、渡辺、コンマスの木野の三氏に、例によって新井氏の司会。マエストロサロンで磨いた「アライサン」(ラザレフの常套句)の司会の腕も神業に近いものがあります。
わずか20分ほどの間に3人から其々の人柄まで曳き出したトークは徹底的に楽しいもの。全身全霊を傾けた演奏を終えた3人に、負担を与えずに労をねぎらう配慮こそ見事なもの。

とにかく素晴らしいコンサートでした。ラザレフの会は1回でも聴き逃せませんな。

なお、この日演奏された交響詩と交響曲は、翌日(つまり今日)日本フィルの本拠地である杉並公会堂で録音セッションが行われ、今年の9月にはCDとして発売される予定です。
このコンサートを聴き逃した方はそちらで確かめて下さい。私はもちろん買いますよ。

 

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