日本フィル・第623回東京定期演奏会

昨日は、日本フィル東京定期・新シーズンの開幕を告げるコンサートに出掛けました。9月は首席指揮者ラザレフ、既に先週の名曲コンサートで今回の活動を開始していますが、定期は第2弾のプログラムです。

≪プロコフィエフ交響曲全曲演奏プロジェクト vol. 5≫
チャイコフスキー/バレエ組曲「白鳥の湖」より
プロコフィエフ/ピアノ協奏曲第3番
     ~休憩~
プロコフィエフ/交響曲第5番
 指揮/アレクサンドル・ラザレフ
 ピアノ/上原彩子
 コンサートマスター/扇谷泰朋
 フォアシュピーラー/江口有香
 ソロ・チェロ/菊地知也

今シーズンの日本フィル東京定期は、これまで年に2回のペースで登場していたラザレフが3回指揮台に立つのが目立ちます。中心に据えてきたプロコフィエフ交響曲全曲演奏の総決算となる他、ラザレフ版による「ロメオとジュリエット」を取り上げるのも聴きどころでしょう。
これに合わせて香港芸術祭への参加も計画されています。挟まれていたチラシの中に、第39回香港芸術祭の案内を見つけました。

日フィルの金曜定期は比較的空席が目立ちますが、昨夜はいつもより客席が埋まっていたように思います。漸くラザレフ/日フィルの意欲的プログラムが認められてきたのでしょうか。
このコンサートはライヴ収録されCD化されるとあって、演奏の意欲も集中力も普段に増して高かったと感じましたね。

冒頭のチャイコフスキーは、定期に登場するのは珍しい演目。ほとんどは「名曲コンサート」に回ってしまう名曲ですが、改めて定期で真剣に(もちろん演奏家は如何なる場合も真剣でしょうが)聴かれると、チャイコフスキーのバレエ音楽の見事さを再認識する魅力があります。

今回は組曲を構成する楽章から、「情景」 ワルツ」「4羽の白鳥の踊り」「チャールダシュ」の4曲が取り上げられました。「情景」は「白鳥の湖」の代名詞になっているオーボエの名旋律。プログラム誌にも新団員として紹介されている杉原由希子の美しいソロを浮き立たせるマエストロの妙技。

もっとチャイコフスキー節に酔っていたい気分ですが、プログラムは容赦無くメインのプロコフィエフへ。
(そうそう、ラザレフ/日フィルはこれでチャイコフスキーの3大バレエを全て抜粋で取り上げたことになります。1枚のCDに編集してくれることに期待しましょう。)

さて、ピアノ協奏曲のソリストには上原彩子が選ばれました。私が彼女を聴くのは少なくとも三度目ですが、今回は文句なく素晴らしいと思いました。何よりプロコフィエフの音楽が、彼女のパーカッシヴなピアニズムに合っているのでしょう。抜群のテクニックで難所も楽々と通過していく心地良さ。

ラザレフのバックが、聴衆に作品の構成を明確に意識させて行くのも見事。特に第3楽章のフィナーレで、音楽が4段ギアーで頂点に駆け昇って行く様はスリル満点でした。

邪推ですが、上原のピアノに磨きがかかってきたのには、母親になる強さが芽生えたからかも知れません。「母は強し」 ということでしょう。

メインの第5交響曲は、ラザレフ/日本フィルとしても二度目。前回は客演指揮者としての棒でしたが、今回は首席指揮者として、プロコフィエフ・ツィクルスの一環としての演奏。随所にラザレフらしさをクッキリと刻印していきます。

その好例は第2楽章でしょう。
冒頭、第1ヴァイオリンの3度進行を目立たせるアクセントの強さ。リズムを引き継ぐ小太鼓の決然たる叩かせ方。恐らくここでのリズムは、ラザレフが何度もオーケストラに注文を付け、徹底してリハーサルを繰り返したに違いないでしょう。
その成果が見事に発揮され、聴き慣れたアレグロ・マルカートは、正に「マルカート」として「強調」されて行くのでした。

アレクサンドル・ラザレフが日本フィルにもたらしている意識改革は、定期演奏会のあり方そのものにも及んでいるようです。アンコールはやらないのが常識だった定期に、マエストロは何の躊躇いもなくデザートをサービスします。
この日は同じプロコフィエフの歌劇から、「戦争と平和」のワルツ。凄まじい音響で圧倒された交響曲の後、密やかで儚いワルツが何と心に沁々と響くことか。

楽員からも “おもちゃ箱をひっくり返したシンフォニーのあと、癒しの効果があるかもね” という感想が漏れ、マエストロから “音楽は楽しまなくちゃ” という声が聞こえてきそうな定期演奏会でした。

二日目(土曜日)はいつもと違って午後4時開演です。メインが終わっても直ぐには席を立たないこと。日本フィルの改革は着実に前進しているのですから。

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