日本フィル・第286回横浜定期演奏会

日本フィルの4月横浜定期は、各界で話題になっているインキネン/日フィルによるシベリウス・チクルスの2回目。前日にサントリーホールで行われた名曲コンサートと同じプロによる二日目です。
4月も後半に入った時期としては異様に寒く、冷たい雨が打ち付ける中、桜木町の横浜みなとみらいホールに出掛けました。

冬モノ衣類はほとんどクリーニングに出してしまったので、箪笥の奥に仕舞い込んでいた着古しのコートを引っ掛けながらホールに入ります。
“寒いですね、一体どうしちゃったんでしょう。シベリウスなんかやるからでしょうかねェ”、“きっとインキネン寒気団が南下して来たんですよ。”などと軽口を叩きながら恒例の奥だ佳道氏のプレトークを待ちます。

今回は氏がどのような話をするかに興味津々、横浜でシベリウスの4番が受け入れられるのかに関心がありました。
予想した通り、氏のトークはほとんどが馴染の無い第4交響曲の話題。インキネンの意図は、シベリウスおたくからは最高傑作として評されていながら一般受けのしない第4を、最も有名な第2とカップリングすることで聴いて貰おうという点にあるようです。
プレトークでも、如何に第4が芸術的に優れているか、それでも独仏では全く理解されてこなかった歴史なども紹介し、その啓蒙に多くの時間を割いていました。

元よりシベリウス大好き人間の私は、「最高傑作」を聴くのを楽しみにしていた口。ふむふむ、と相槌を打ちながら指定席に腰を下ろします。

シベリウス/交響曲第4番
     ~休憩~
シベリウス/交響曲第2番
 指揮/ピエタリ・インキネン
 コンサートマスター/扇谷泰朋
 フォアシュピーラー/江口有香
 ゲスト・チェロ・ソロ/北本秀樹

予想した通り、と言うか懸念が当たったというべきか、第4交響曲は横浜会員には難しすぎたかも。第2楽章が終わった所で出て行ってしまう聴衆もいましたし、終了後の拍手も何処か儀礼的。ドイツ音楽のワンパターンな音楽書法を忘れさせるのは至難なことと感じました。
後で聞いたところでは、東京では遥かに好意的に受け取られた由。それはそうでしょう、何と言っても東京には最先端の聴き手が集まりますから、ね。

これは決してインキネンの解釈が説得力に欠けていた、ということではありません。いや寧ろ、シベリウス嫌いの人間にも今回の演奏でやっとシベリウスの良さが判ったという聴き手もいたほど。
難解な作品にも透明感を際立たせ、その静謐な響きのなかに美しさを感じさせるマエストロの音楽性は、ここでもシッカリ聴き手の耳に焼き付けられたようです。

後半の第2は、流石に横浜でも人気曲の一つ。ラザレフ指揮の豪快なシベリウスも記憶に新しい所でしょう。
インキネンは、ラザレフとは一味違うアプローチ。俗に言う「本場もの」の解釈は極めて直截なもので、コッテリした表現的演奏に慣れた耳にはアッサリし過ぎて響くかもしれません。

それでも、4番にも共通した研ぎ澄まされた響きにインキネンの美質を聴き取ります。
第1楽章のピチカート主題、やや強めに提示したあと直ぐに音量を落とし、クレッシェンドを際立たせるやり方。第3楽章ヴィヴァチッシモでは、練習記号Aの3小節前からの和音3連打。ここも最初を強し、続く2打を弱めにするのは、スコア通り ff と fz とを忠実に弾き分けた結果でしょう。
斯くの如く、聴き古した耳にも新鮮に響く解釈は、マエストロの愛情に満ちた譜読みから生じた結果なのです。

アンコールは、予想通り「悲しきワルツ」。コンサートを終え、インキネンも日フィル恒例の一礼に参加するのは首席客演指揮者としての意識表現でもありましょう。
正面だけではなく、舞台後方のP席に向かって一礼を繰り返すのは、インキネン流。

コンサートが終わって10人ほどと感想を述べ合いましたが、ほとんどの会員は第4交響曲には否定的。
咽喉腫瘍の切除手術を受けたシベリウスが死を意識していた時期に書かれたため、その鬱々とした気持ちが余りにも作品に暗さを持ち込んでいる、というのがアンチ第4の多くの意見のようです。
しかし、その体験がシベリウスをシベリウスに変えたとも言えるのであって、単に暗いから、判り難いからという理由で拒絶反応を示すのは如何なものでしょう。馴染無さを克服してこそ、音楽を聴く真の喜びが得られるのではないでしょうか。

今回、第4交響曲で美しいソロを聴かせてくれたゲスト・チェロは、元東フィルの首席で、サイトウキネンでも活躍している北本氏。嬉しいサプライズでもありました。

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