日本フィル・第649回東京定期演奏会

念願叶って「公益財団法人」の認定を受けた日本フィル、公認後最初の東京定期初日をサントリーホールで聴いてきました。プログラム冒頭にも挨拶文が掲載され、僅かながらも協力させて頂いた一定期会員としても喜ばしいスタートです。
4月は前月に続いて首席客演指揮者インキネン登場、もちろん日本オケ界今期最大の話題の一つであるシベリウス・チクルスの最終章。

私はインキネンの日フィル初登場(横浜のチャイコフスキー第4)を聴いた時から、マエストロによるシベリウス交響曲全曲演奏を予感。それが実現し、無事に全曲を聴くことが出来たことに特別な感慨を抱きます。予感が現実となり、期待が感動に昇華した喜びを。

シベリウス/交響曲第3番
     ~休憩~
シベリウス/交響曲第6番
シベリウス/交響曲第7番
 指揮/ピエタリ・インキネン
 コンサートマスター/江口有香
 ソロ・チェロ/菊池知也

3回のシベリウス・チクルスの中で最も期待されたのが、今回のプログラム。シベリウスの全交響曲を演奏する際に、最も注目すべきなのはそのプログラミングでしょう。
恐らくインキネンは、そのプログラミングを先ず第3回から決めたのではないか。それはハ長調で始まりハ長調で閉じられるプログラム。しかも続き番号となる作品104と作品105をアタッカ(休みを入れずに)で続けるという秀逸なアイディア。ここにインキネンの並々ならぬ意欲を感じます。
そして最も晦渋な第4と、最も有名な第2を組み合わせるプログラムが続き、残った第1と第5を並べるのは自然な成り行き。これを真逆に演奏して行くのが、インキネンのコンセプトだったかと思慮します。

インキネンのシベリウスに掛ける意欲は、その演奏の精度の高さにも見事に表れていました。何よりも透明度に優れた弦の響きに、純度の高い管楽器が加わるスリル。これこそがシベリウス・ワールドと言うべき。
日フィル3人のコンマス中で、江口はインキネンの要求に最も相応しいタイプでしょう。初体験の横浜チャイコフスキーも確か彼女でしたし、江口で最終回を迎えたのも単なる偶然ではないようにも思われます。

冒頭の第3交響曲。第1楽章の主題の提示が一頻り終了し、楽想がトランクィロに変わって奏でられる弦合奏の ppp (練習番号)。この澄み切って、テンポを落としながらも緊張度を失わない弱音にこそ、インキネンの強い表現を感じました。決して忘れることのできない美しさの極み。
これに、春の淡雪のように鳴らされた瞬間から虚空に融けていく第2楽章が続きます。
第3楽章は、2度音程の上向と下降から成る単純なモチーフで全体を締め括りますが、このモチーフが早くから密かにホルンに登場してくる(練習番号5の8小節目から)のが聴き取れるのは、オーケストラの透度が限りなく高いが故。

前半を聴き終えたとき、思わず“嗚呼シベリウス、これぞシベリウス”と感嘆してしまったのは、何も私だけではないでしょう。

そして後半もシベリウスの極致。
特に滅多なことでは聴けない第6交響曲が、如何に名曲であるか。これほどの確信を感じさせたのは、流石の日フィルでも渡邉暁雄、ネーメ・ヤルヴィでの演奏経験を踏まえた上での成果だったから。
当時と同じ楽員ではありませんが、その伝統が団そのものにDNAとして受け継がれていることに感動を覚えざるを得ません。

そもそも「名曲」とは何か。言うまでも無く、度々聴かれるから、人気があるからが名曲の条件では無いことは勿論でしょう。演奏する価値のあるもの、聴き手に強いメッセージを与えられるもの。それこそが名曲であって、シベリウスの第6交響曲は定期的に演奏されなければならない運命を背負っている、とすら感ずるのでした。
消費される音楽ではなく、蓄積される音楽。

第6と第7を休みを置かずに続けて演奏するという試みは、インキネン自身は“他の指揮者もやっている”と語っていますが、恐らく嚆矢はインキネンでしょう。少なくとも私は初体験だし、この2曲を一つのプログラム内で聴いたのも初めてのこと。我が生涯で最後にならないことを祈るばかりです。
第7が「名曲」であることはこれまでも日本フィルに限らず多くのオケが証明してきましたが、改めて第6から続けて聴くと、そこには厳しい冬が終わって待ち望んだ春が来たようにも感じられます。冬は厳しいほど、春は歓喜に満ちる。
そう、あのトロンボーンの名旋律は、春の女神の降臨なのです。輪廻転生の象徴、とでも言うべきか。

もうこれ以上細部を詮索する必要はありますまい。残念ながらインキネンのシベリウス・チクルスは終わってしまいました。横浜で奥田氏が明かしてくれた情報によると、マエストロは5月末にミュンヘン・フィルにデビュー、同じシベリウスのクレルヴォ交響曲を演奏するとのこと。
ミュンヘンに飛びたい気持ちは山山なれど、いずれ日フィル定期でもクレルヴォを、あわよくばレミンカイネン・セットを取り上げてくれることに期待しましょう。
「公益財団法人日本フィルハーモニー交響楽団」の更なる躍進を願いつつ・・・。

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1件の返信

  1. 清水浩憲 より:

    いつも、HP楽しみしています。特に日本フィルのコンサート情報。今日、28年ぶりに定期にいきました。インキネン良かったです。楽譜を見ながら、ここぞ、という所に、力こぶを入れる姿に、ふとアケ先生を見る想いでした。七番は、アケ先生のときは、
    一番、バイオリンコンチェルト、堀米さんだったと思います。田辺元運営委員長のお姿も拝見しました。これからも、よろしくお願いします。

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