復刻版・読響聴きどころ(9)

これは番外編として取り上げたストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」です。2007年4月に池袋の芸術劇場で行われた芸劇マチネーというシリーズだったと思います。
いろいろ経緯があったようですが、その辺の話は全部カットして本題だけ。途中からですがどうぞ。

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ということで、しばらく躊躇いましたが、簡単にストラヴィンスキーの「火の鳥」組曲だけ紹介しておきます。
時間もなし、気構えもなしですから、大した事は書けません。その辺はご容赦頂いて・・・。

さて、火の鳥はいくつもの版があります。少なくとも5種類あるのです。今回スクロヴァチェフスキが取り上げるのは1919年版というもので、最も数多く演奏されているものですね。

オリジナルのバレエ全曲は1910年にパリで初演されたもので、演奏には45分位を要します。4管編成といって、大変大掛かりなオーケストラを用います。最近はこの全曲版の演奏が増えてきていまして、これを聴くとバレエのストーリーが良く判るのですが、今回は組曲版です。
ストーリーにはあまり拘らず、オーケストラの醍醐味を味わうのが良いでしょう。

組曲版もいくつかあります。最初、1911年に編んだものは、やはり4管の大編成で、全曲の中から5曲を選んだもの。有名な「カスチェイ王の魔の踊り」が最後に置かれています。この版は俗に「第1組曲」と呼ばれています。

「第2組曲」というのが今回演奏される1919年版で、管楽器を半分にした2管編成が中心です。経済的にもお得な版ですから、これが最もよく取り上げられるようになったわけ。
こちらは全部で6曲が選ばれています。

ストラヴィンスキーは1945年になってもう一つの版を纏めます。1919年と同じ2管編成を基本にして更に5曲を加え、全部で11曲の組曲です。これは「第3組曲」といわれています。
第1組曲と第2組曲は23分ほどですが、第3組曲は31分かかります。

火の鳥にはもう一つ演奏版がありまして、これは1919年版からクラーク・マッカリスターという人が子守歌とフィナーレだけを抜き出したもの。演奏時間は6分ですから、まぁアンコール用と考えてもいいでしょう。

1919年版の楽器編成は、フルート2(2番奏者はピッコロ持ち替え)、オーボエ2(2番奏者はイングリッシュ・ホルン持ち替え)、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ1、ティンパニ、打楽器奏者3人、ハープ、ピアノ(チェレスタで代行してもよい箇所がある)、弦5部です。
打楽器はシロフォン、タンバリン、トライアングル、シンバル、大太鼓で、まあ定番と言えるものですね。

日本初演は良く判りませんが、今分かっている限りで最も古い記録は、1931年4月29日 日本青年館でニコライ・シフェルブラット指揮の新交響楽団(現N響)です。
このときはプログラムの最初にチャイコフスキーの第1交響曲があり、火の鳥組曲は最後に演奏されています。

その後も例えば、1945年の山田一雄とN響ではチャイコフスキーの第4交響曲の後で火の鳥をやっています。
つまり、火の鳥組曲は23分しかかからない曲なのに、プログラムの最後に演奏されることが実に多いのですよ。

実はスクロヴァチェフスキが読売日響に初めて登場したときも、プログラムの最後は火の鳥組曲でした(小史参照)。今回もドヴォルザークの交響曲は前半に置かれ、最後がストラヴィンスキーです。前回も今回も1919年版です。

ということは、この曲はオーケストレーションが見事で、演奏会の最後を締め括るにはもってこいの作品である、ということの証明だと思います。

あまり細かい所に触れる余裕はありませんが、いくつか聴きどころ、見どころを挙げておきますね。

第1曲・序奏と火の鳥の踊り
序奏はチェロとコントラバスのピチカートで始まりますが、ものものしい音がするので注意して聴きましょう。ここには大太鼓のトレモロがかすかに鳴らされています。音にならないほどですが、いかにも怪物が出てきそうな雰囲気を見事に出しているストラヴィンスキーに敬意を表したいですね。

更に弦楽器にも注目です。ヴァイオリンからチェロまでがフラジォレットと言って、弓を弦にそっと触れることで独特な効果を出します。いかにも生暖かい風が吹いてくる感じ。
グリッサンドという音を滑らせる奏法が使われますが、この曲では様々な楽器がグリッサンドを披露してくれますので、これがとっておきの聴きものになるでしょう。

第2曲・火の鳥のヴァリアシオン
8分の6拍子ですが、アクセントをずらすことによって2拍子と3拍子が交錯するような効果が出てきます。ここではピアノとハープに何度もグリッサンドが出ますが、ここで驚いてはいけません。これは未だ予告編に過ぎないのです。

第3曲・王女達のロンド
チョッと色っぽい曲です。オーボエのメロディーはもともとはロシア民謡で素朴なものですが、ストラヴィンスキーの手にかかると何とも艶っぽく聴こえてくるのがさすがですね。
チェロのソロがそっと寄り添うのも、いかにも、という感じがします。

第4曲・カスチェイ王の魔の踊り
全曲の最大の聴きどころ。最初の大きな音に肝を潰さないで下さい。初めてクラシックのコンサートに行かれる方は、大抵ここで腰を抜かします。
前に書いたグリッサンドの饗宴を楽しみましょう。シロフォンが派手に活躍するところから、トロンボーンが2回、あっと驚くグリッサンドを吹きます。

音楽が3拍子から2拍子に変わり、暫くするとピアノがグリッサンド6連発を披露します。これと同時にハープもグリッサンドで対抗します。ここは聴きどころというよりも、見どころでしょう。ピアニストの手の動きが見える席だと良いのですが・・・。
クライマックスではピアノ+ハープのグリッサンド合戦が4回出て、この楽章は終わり。ここで思わず拍手したくなりますが、ここは我慢してください。あと2曲残っています。

第5曲・子守歌
ここはファゴットが一人淡々と子守歌を歌っていきます。伴奏のハープにも注目してください。ここにも僅かにグリッサンドが使われますが、前の曲とは全く別の役割になっていることに気が付くでしょう。

第6曲・終曲
フィナーレに入る前に弦楽器のトレモロが続くのですが、ここはスル・タストという、弓をコマから遠い方に移動させて弾くのですが、ここも見どころの一つでしょうね。
終曲は何といってもホルンのソロが聴きどころ。今回は山岸氏が吹くでしょうか。読響ホルンは名人揃いですから、安心して聴けるでしょう。

以上、ザッと触れました。参考になれば良いのですが・・・。

ということで、私は聴く予定ではなかったのですが、責任上、聴きに参ります。日曜日の芸劇、3階席ですわ。

 

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