復刻版・読響聴きどころ(23)

2007年12月定期では、イタリアの器楽作曲家マルトゥッチの作品が紹介されました。復活が待たれる人ですが、これがその第一歩になったのでしょうか。2曲ある交響曲を取り上げる、勇気あるオーケストラはありませんかね。

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12月の聴きどころです。今シーズンは読売日響創立45周年ということで、6月の若杉弘、7月のラファエル・フリューベック・デ・ブルゴスと、読響縁のマエストロが再登場しています。(残念ながら7月のフリューベック氏は急病のため来日できませんでしたが・・・)

ということで、12月は尾高忠明氏登場、曲目はマルトゥッチの第2ピアノ協奏曲とエルガーの第2交響曲です。マルトゥッチでのソロは、この曲を得意にしているゲルハルト・オピッツ。先だってもムーティ指揮ニューヨーク・フィルの定期で演奏し、大喝采を浴びた由。東京でも期待が高まっているところですね。

ということで、マルトゥッチ。
マルトゥッチといっても、馴染みのない方も多いと思います。作曲家のプロフィールについてはプログラムに紹介されるでしょうから、そちらで・・・。
読響では、1999年7月定期で、アルミリャートが夜想曲を取り上げていました。今回演奏されるピアノ協奏曲第2番は、恐らく日本初演ではないかと思われます。演奏記録をご存知の方がおられましたら、是非紹介して下さい。

それでもマルトゥッチの略歴を書いておきましょうね。生まれは1856年1月6日、イタリアのカプアです。亡くなったのは1909年6月1日、ナポリ。僅かに53歳でした。早逝が惜しまれるイタリアの作曲家です。

イタリアと言えばオペラ、ですよね。バロック時代以降、彼の地では器楽曲は人気がありませんでした。今でもそうかも知れません。しかしマルトゥッチはイタリア器楽音楽の主導者、現在では忘れられてしまったのは、こんなところに起因しているのでしょう。

マルトゥッチの父はトランペット奏者にして指揮者。息子のジュゼッペはピアニストとしても活躍し、リストとアントン・ルービンスタインからも絶賛されています。更に指揮者として、作曲家として当時のイタリアを代表する人物でした。

指揮者としてはイタリアにワーグナーを紹介した功績が大きく、トリスタンのイタリア初演を振っています(1888年6月2日、ボローニャのテアトロ・コムナーレ)。
得意としたのはワーグナーに留まらず、ブラームス、ゴルトマルク、リヒャルト・シュトラウス、ラロ、ドビュッシー、サリヴァンからスタンフォードまで、実に幅広いレパートリーを誇っていました。
19世紀後半のヨーロッパ大陸の音楽界で、イギリス音楽だけで一晩のコンサートを指揮できるのはマルトゥッチだけだったそうです。今回の組み合わせ、エルガーは正に時宜に適った選曲と言えましょう。

作品には交響曲が2曲、ピアノ協奏曲が2曲、その他管弦楽の小品などがありますが、長生きしてくれれば更に大作の数が増えたでしょうに。

スペースが無くなってしまいます。第2ピアノ協奏曲の聴きどころ。
とにかく素晴らしい作品です。是非この機会を逃さず、一人でも多くの方に聴いていただきたい傑作。へぇ~、イタリアにこんな立派なピアノ協奏曲があったのか、と感嘆するはずです。

オーケストラ編成は当時の標準的なもの。フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、オフィクレード、ティンパニ、トライアングル、弦5部です。
オフィクレードというのが如何にもイタリアですが、勿論チューバで代用されるでしょう。トライアングルは第3楽章だけ。また第2楽章ではトロンボーンとオフィクレードは使われません。

通常の協奏曲と同じ、3楽章構成です。第1楽章はアレグロ・ジュスト、第2楽章がラルゲット、第3楽章はフィナーレ、アレグロ・コン・スピリートとなっています。この三つの楽章、劇的-叙情的-リズミック と思えば間違いありません。
第1楽章は変ロ短調、♭五つが基調です。そう、チャイコフスキーの有名な1番と同じ調ですね。
ただ音楽は、ブラームスの第2協奏曲の第1楽章と実に良く似ています。オーケストラで始まった後、直ぐにピアノのカデンツァ風のソロが出る辺り。ピアノの書法は、リストを連想させ、大変なテクニックを要する難曲でもありますね。

本当の(というか、第2の)カデンツァは、通常の位置に置かれています。ここもオピッツのテクニックを堪能する箇所。
これはソナタ形式ですが、展開部の頭にも注目して下さい。第1主題は4度下降するモチーフのつながりで出来ていますが、これが形を変え、ゆったりと出るところ、まるでベートーヴェンの第9交響曲の第3楽章の出だしそっくりに聴こえます。木管のあと弦楽器で出るところなど、思わずニンマリしてしまうと思います。チョッと注意していれば、直ぐに気が付くでしょう。

第2楽章は変ト長調、主題と変奏だと思いますが、とにかく美しいメロディーを楽しんで下さい。特にチェロとピアノの美しい絡みは断然の聴きどころ。

第3楽章は第1楽章と同じ調ながら、楽しいロンドです。トライアングルも活躍しますが、この楽章もブラームスの第2協奏曲のフィナーレを連想させるところがありますね。

CDはいろいろ出ているようですが、ブリリアントのマルトゥッチ管弦楽曲全集が入手し易いでしょう。4枚組ですが極めて廉価。序に交響曲も聴いてみて下さいな。
ホルショフスキーのソロとトスカニーニの指揮、という歴史的録音もあるそうです。歴史的、と言えば、グスタフ・マーラーが生涯の最後に振ったニューヨーク・フィルの演奏会。ここでもマルトゥッチのピアノ協奏曲第2番が取り上げられたんですよ。

今回の読響定期を切っ掛けとして、日本でもマルトゥッチ・ルネサンスが興ることに期待しましょう。繰り返しますが、定期会員の皆様、マルトゥッチなんて知らない、と言って欠席しないこと。

一度切ってエルガーに続けます。

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さてエルガーの第2交響曲、日本初演を調べたのですが、どうもそれらしい記録が見つかりません。定期演奏会に限れば、少なくとも2000年まではどのオーケストラも取り上げていないのです。意外でした。それ以後はキチンとしたデータがなく、私のうろ覚えになります。

大友直人が東京交響楽団と演奏しているのは間違いないのですが、芸劇シリーズで2000年以前にやっていたような気がします。このコンビ、定期では2002年の6月8日にサントリーホールで、第493回の定期で演奏していますね。これは聴きました。

2002年は第2の当たり年で、5月16日と17日、同じくサントリーホールでロッホラン/日本フィルが第540回定期の曲目に選んでいますし、10月18日には新日本フィルの定期、すみだトリフォニーホールで広上淳一が指揮しています。

当然ながら尾高忠明も振っているはず。札幌か東フィルでやっているような気がします。
ということで、日本初演データについては宿題。いずれ判明したら追加コメントということにしましょう。

序ですが、読売日響の定期にエルガー第2が登場するのは、今回が初めてです。第1は既に3度くらい演奏されているはずで、いかに第2に人気が無いかの証拠であるようにも思えます。

楽器編成は大きなもので、フルート3(3番奏者はピッコロ持ち替え)、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、ESクラリネット、バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3,チューバ、ティンパニ、打楽器4人、ハープ2、弦5部です。打楽器は小太鼓、タンバリン、シンバル、大太鼓。

一昔前、エルガーはマルトゥッチ並に知られざる作曲家だったのですが、昨今は日本でも人気が出てきました。マニアックなファンもいるほど。日本人指揮者のエルガー第一人者は、何と言っても大友直人と、今回第2を振る尾高忠明でしょう。その意味でも、今回の定期は聴き逃せません。

聴きどころもたくさんあります。本来ならエルガー・マニアに書いて頂くのがベターですが、ここでは一般的な聴きどころということにしておきましょうか。
エルガーの音楽は、ドイツ音楽のような起承転結があまり明確ではなく、何となく始まって何となく終わってしまう、と、よく言われます。ここぞという頂点が無いようにも聴こえるのですね。

しかし彼ならではの魅力に気が付くと、これまた病み付きになるのも事実です。
その一つに謎かけがあります。この交響曲のスコアの扉には、パーシー・ビッシー・シェリー (1792-1822) の詩が引用されています。「インヴォケーション」(詩神への祈り)の冒頭の2行、“めったに、めったに、お前は来ない。歓びの精霊よ” というのです。これをどう解釈するか。

普通これは、この詩の結びの句、“精霊よ、お前を愛している-お前は愛であり、生命だ! 戻ってきて、もう一度この胸に宿っておくれ” を先取りしているのではないか、と解釈されているようです。
つまり、晩年のエルガーは創作力が枯渇し、その悩みをこの詩に託して、密かに暗示しているのだ、と。
どうも、これは違うような気がしますが、エルガー自身は何も言っていないようです。

この謎かけに惑わされなくとも、この交響曲には“落日の輝き”が聴いて取れるような感じがします。そもそもエドワード7世に捧げる積りで作曲を開始し、途中で国王が亡くなったために「エドワード7世の想い出に」捧げたのですから。

この感じが最もよく出ているのは、葬送行進曲でもある第2楽章と、最後の最後、第4楽章のコーダでしょう。特にコーダは、あたかも潮が引くようにオーケストラが弱まり、第1楽章のテーマが回想されつつ終わっていくのです。私にとってはここが最大の聴きどころ。この寂寥感、暮れて行く夕日の感じがどのくらい出るか。指揮者の腕の見せ所だと思います。

もう少し具体的に紹介すると、第1楽章の最初、ヴァイオリンと木管によって提示される主題の3小節目に注目して下さい。移動ドで表記すると、ドーーーシラ・ミーレ・ラーソ、と下がってくるメロディーです。
このテーマが、第2楽章の最後の方で、第1ヴァイオリンに微かに出ます。
更に第4楽章のクライマックスのあと、次第に音量が弱まりながら、最初はフルート+クラリネット+ファゴットによる p で、2度目にはオーボエ+イングリッシュホルン+クラリネット+ホルンの mf で、3度目にクラリネットの pp で溜息のように演奏されるんですね。エルガー・ファンは必ず泣くところです。

ここで思わずハンカチを握り締めるようになったら、あなたも立派なエルガー・マニア、もうどれを聴いても大丈夫ですよ。

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