強者弱者(93)
蝙蝠
二十日庚申待、宵暗に星影おぼろなる風情、一刻千金といひけんもことわりなり。此頃より黄昏の空に蝙蝠のかけるを見る。蝙蝠と蟇の多きは東京市の特色なり。上野の森に近き町々、殊に其夥しきを見る。春より夏にかけて夕ぐれ蝙蝠の群れ飛ぶこと空に石降るが如く、耳に異様の響を聞く可し。京橋、日本橋などセルの単衣心地よげなるよき人の打水の風清らなる夕を、暫しと立出づる露路の暗に物あり、ハタと肩をうちたる、悪びれもせで蝙蝠のわざと知りたるもをかし。歌舞伎座、市村座、新富座など、歓楽の夢こまやかなるに、電燈をめぐりて飛びしきる蝙蝠、夢幻の感興を半にうち消してそぞろに現実の世界を思はしむること憎む可し。
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「庚申」(こうしん、かのえさる)はいつぞやも八専で取り上げたように、十干十二支の組み合わせの一つ。60通りあるので、東洋の60進法ですね。
従って一年に6回巡ってくる勘定になります。もちろん年によって日付は変わりますから、この年は20日が庚申だったということ。
因みに今年(平成22年)は、1月10日、3月11日、5月10日、7月9日、9月7日、11月6日が相当します。
で、「庚申待」(こうしんまち)というのは帝釈天を祀る日のことで、庚申の夜は徹夜で祀る習慣があるそうです。寝てしまうと命が縮まるという、道教に由来する禁忌ですね。
東京の特色は蝙蝠と蟇が多いこと、と言っていますが、100年前はそうだったんでしょう。現在でも蝙蝠も蟇も時折見かけますが、都会化が進んだ所為で、名物というほどではなくなりました。
ここに描かれているのは、現在なら一寸したセクハラ行為をしても蝙蝠の所為にしてしまうという、微笑ましい情景です。
そんなこと言ったら怒られるか・・・。
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