強者弱者(96)
場末の新緑
欅の新緑は楓に後るゝこと二旬若しくは三旬なり。発芽のはじめは銀茶色にして、漸く其色を変ず。暮春の麗日を遮りて鬱然蔭をなす所人を圧して力あり。朝日に夕日に万象蒼然として青し、富士前を妙義坂へ、白山を板橋へ、大塚を巣鴨へ、目白を雑司ヶ谷へ、神楽坂を戸塚へ、新宿を中野へ、四ッ谷を代々木へ、青山を渋谷へ、白金を目黒へ、伊皿子を大崎へ、旧府時代の藁葺屋根を交へたる狭苦ししき場末の町を彩りて、活発たる生色を与ふるものは欅の新緑なり。就中欅の新緑は目白、雑司ヶ谷附近に於いて其特色を見るべし。欅の外に新緑の美は之を落葉松、檜、槙、ぶな等に見るべし。落葉松の新緑はひとり、目黒の山林試験所に於いてのみ之を見る可し。
槙は駿遠地方にて多く生籬として之を植うれども、市内にてはみな枳殻、かなめを用ふ、東郊柴又、小岩、市川の辺りには槙の垣根多し。
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欅の多い地名がいくつも挙がっています。
「富士前を妙義坂へ」というのは現在の駒込界隈、本郷通り沿いの景色でしょうか。
「落葉松」は「からまつ」。100年前の帝都には「ぶな」も健在だったのは驚き。
目黒の山林試験所は、現在は「林試の森公園」として整備されています。最近は訪れていないので詳しくは判りませんが、落葉松もあったと記憶しています。
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