読売日響・第492回定期演奏会
読売日本交響楽団の新しいシーズンがスタートしています。私も今シーズンから会員を定期演奏会シリーズだけに絞り、座席も心機一転で変更しました。(尤も理由は経済的事情で、甚だ情けないことではありますが・・・)
今シーズンから前任のスクロヴァチェフスキに替り、新任の常任指揮者の着任でもあります。4月定期は、その就任披露演奏会。
ミスターSの人気が高かっただけに、カンブルランは先ず聴衆の心を掴むことが先決でしょうか。就任披露にしては空席が多かったのが気懸りですね。
≪常任指揮者就任披露演奏会≫
ベートーヴェン/序曲「コリオラン」
マーラー/交響曲第10番~アダージョ
~休憩~
シェーンベルク/交響詩「ペレアスとメリザンド」
指揮/シルヴァン・カンブルラン
コンサートマスター/デーヴィッド・ノーラン
フォアシュピーラー/鈴木理恵子
その前途を象徴するかのように、マエストロの今回の来日は大層な波乱だったようです。というのも、例の長ったらしい名前のアイスランドの火山噴火に伴う空港閉鎖の影響をモロに受けてしまった由。
氏の機転でスペインからアジアを廻るルートで便を乗り継ぎ、何とかリハーサルに間に合ったのだとか。72時間がかりの来日の経緯は読響ホームページにも掲載されていますから、是非ご覧ください。
フランス人マエストロということで、今回のカンブルランの一連の公演は在日フランス大使館が後援しています。プログラムにもマリアンヌをデザインした三色旗のロゴマークが踊っているのは、そのため。
しかし定期の選曲はドイツ音楽がずらり。カンブルランという指揮者は中々の曲者と見ましたがどうでしょうか。
冒頭にコリオランを置いたのは、プログラム誌によると“常任に就任して最初に出す音には強いアタックが欲しい”からなのだそうですが、私にはアタックよりもそれに続く第一主題のアーティキュレーションに耳が行きました。
普通にドイツ系の指揮者が演奏するのとは違い、テンポを微妙に揺らすのです。明らかにカンブルランの指示でこのように独特な語り口が生まれたのでしょう。
2曲目のマーラーは2009年1月にも上岡が定期で取り上げた作品ですが、今回は上岡の多彩で劇的な名演とはかなり趣の異なる解釈と感じました。
聴く人の好みもあるでしょうが、濃厚な情念よりは響きの色彩感に力点が置かれている感じ。月並みな感想ですが、やはりラテン系のマーラーと感じてしまうのです。
それはメインのシェーンベルクも同じ。
読響と言えばゴツゴツと重くパワフルな響きをイメージしますが、カンブルランはこれに繊細な色彩感を付け加えていたと思います。
例えば「城の塔の場面」に登場する「風」を描写する音楽。練習番号でいえば25の Sehr langsam の微妙なオーケストレーションを丁寧に音にしていく様子。あたかもドビュッシーの様な響きを感じ取ってしまうのは先入観故でしょうか。
他にもスケルツォに相当する練習番号16からの軽やかさとか、「ペレアスとメリザンドの別れと愛の場面」を開始する(練習番号36)ヴァイオリンとチェロのバランスとか、エピローグのクライマックスでの艶やかなフォルティシモとか。
大きな拍手を遮って、マエストロは平明な英語で簡単な挨拶。その中で“ベストを尽くす”という公約もありました。
カンブルランと読響の新しいコラボレーション。その意欲的なプログラムと、マエストロが読響にもたらすゴージャスな響きに期待したいと思います。
最後に一つ、プログラム誌について。
新シーズンのスタートに伴い、曲目解説陣が一新されました。これまでは余りにも表面的な曲解で大いに不満を感じていましたが、今回は内容も充実して読み応えのあるものに変わっています。
何より初演情報とオーケストラ編成がキチンと紹介されているのが大進歩ですね。
その上で気が付いた点に触れると、楽曲の標準演奏時間はダニエルズ第4版から転記されているようです。(ダニエルズについては、日本フィルの4月定期プログラムに初めて言及されているのを見ました)
この引用はどうやらオーケストレーションについても同じ。この日の曲目について言えば、シェーンベルクでの表記はダニエルズの誤りがそのまま反映されています。
「オーボエ3、イングリッシュ・ホルン」は、正しくは「オーボエ3(イングリッシュ・ホルン持替)、イングリッシュ・ホルン」とすべき。ユニヴァーサル社スコアの大譜表にもこう記されていますし、実際に第4部(再現部)に相当する練習番号50では第3オーボエがイングリッシュ・ホルンに持ち替え、2本のイングリッシュ・ホルンが合奏する箇所が存在するのです。
なお、二人で演奏するティンパニ。ダニエルズでは一人で演奏可能と記されていますが、この日はシェーンベルクの指示通り2組のティンパニで演奏されていました。備忘のために付け加えておきます。
プログラムが充実した分、逆に細かい点を詮索してしまいました。何とも性質の悪いメリーウイロウではありますな。
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