強者弱者(97)
煙毒
近年市に於ける工業の著しき発達と共に、煤煙の樹木を毒すること恐るべきものあり。殊に針葉樹の煤煙を厭ふこと其姿の雄々しきに似ず。十年以前余の就いて学べる理科の教師は上野の森の梢を指して、鳥類の体温が如何に樹木を害することの甚しきかを見よといへり。されど鳥類の体温が樹木の梢を害するといふは誤れり。東京市の名ある森林、さては由緒ある古木が近年続々として亡びゆくは煤煙の害なり。
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平易な文章ですが、内容には驚いてしまいます。鳥の体温が樹木を害するという説が、学校で教えられていたという事実ですね。
樹木の害となるのは一概に煤煙だけとは言えないと思いますが、鳥の体温などと言うのは笑止千万でしょう。しかし100年前はそれが堂々と罷り通っていたことに驚くのです。
十余年前に上野の森を指さして、とありますが、秀湖は明治32年(15歳)で上京、日本郵船の岩永専務の書生として住み込みながら郁文館中学3年に編入していますから、ここでの理科の授業だったと思われます。
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