復刻版・読響聴きどころ(15)

2007年7月定期もカリニャーニのピンチヒッター起用でした。プログラムは当初発表のものと変わっていません。

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7月定期はカリニャーニが代わって指揮しますが、曲目は発表通りだそうです。ということで聴きどころ。

このプログラムはストラヴィンスキーの生誕125年記念と発表されていたようですが、改めて機関誌6月号を眺めましたが見当たりません。まぁ、どうでもいいことですが、それなら全ての曲目をストラヴィンスキー一色にした方が面白かったのではないかと思ってしまいました。

今回取り上げられるのはストラヴィンスキーのサーカス・ポルカと春の祭典。それにラフマニノフのピアノ協奏曲第2番です。
まずストラヴィンスキーから。

最初に日本初演の情報。
サーカス・ポルカは多分これ。他の機会に演奏された可能性もありますので、定期初登場記録として認識してください。
1983年9月21日 NHKホール ヘルベルト・ケーゲル指揮・NHK交響楽団。このコンサートは翌日も演奏されています。

続いて「春の祭典」。これは間違いなく日本初演だそうです。
1950年9月21日 日比谷公会堂 山田一雄指揮・日本交響楽団(現N響)。これも翌日演奏されています。

さてサーカス・ポルカですが、中々資料が集まりませんので簡単にいきます。オーケストラの編成は、
ピッコロ1、フルート1、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、打楽器3人、弦5部。打楽器は小太鼓、シンバル、大太鼓です。演奏時間は4分以内、始まったかと思うと直ぐ終わってしまいます。

元は1942年のピアノ曲ですが、オーケストラ用に編曲し、1944年1月に自身の指揮、ボストン交響楽団で初演しています。
スコアには管弦楽のためのサーカス・ポルカと書いてありますが、副題があって composed for a young elephant 。つまり「若い象」のために作曲したもの。「小象」という解説もありますが、チョッと違うように思います。プーランクのものと並んで、象のための貴重な作品。それは冗談。アメリカのサーカス団のために書いたものです。

最初は謎掛けにしようと思ったのですが、機関誌に書かれてしまいました。曲の最後に、シューベルトの有名な軍隊行進曲が引用されるのが聴きどころ。ピアノの原曲には“シューベルトによる” after Schubert という但し書きがあります。

僅か4分ほどの作品ですが、結構凝っています。練習番号が30まで付けられていまして、出だしは♯4っつ。賑々しい序奏のあと、クラリネットとホルンの絡みが出てきます。練習番号4からファゴット、チェロとコントラバス、トロンボーンといった、いかにも象を連想させるパッセージ。
8からはクラリネット2本とトランペットが主役。12からは♯6っつに転調し、弦、続いて木管にいかにも象が甘えるような音を滑らせるグラツィオーソが出現。ここは中間部でしょうか。17以降は♭3っつに変り、ピッコロとフルートの絡みと、結構オーケストラの名人芸が要求されています。

練習番号19で♯4っつに戻り再現部。クラリネットとホルンの絡みが再現、ファゴット、低弦、トロンボーンも再現したところで練習番号26。ここからコーダですね。金管楽器を中心にシューベルトが高笑いを浮かべると、もうお仕舞い。

レコード録音では、ピアノのオリジナルを更に2台ピアノにアレンジしたものが初録音されていました。ヴロンスキーとバビンによるコロンビア盤。管弦楽版はアンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団によるデッカ盤が世界初録音で、私が持っているのはこれです。その後ストラヴィンスキー自身がニューヨーク・フィルと録音したものも出ました。
新しいもので推薦盤がありましたら、どうぞ書き込んでください。

次は「春の祭典」にいきましょう。日本では「ハルサイ」と呼ばれていますが、欧米では「サークル」と愛称することが多いようですね。フランス語の「祭典」。Le sacre du printemps ル・サークル・デュ・プランタンですね。ロシア語では「ヴェスナ・スヴィアシュシェンナヤ」と言います。舌噛みそう。

さてこれも版がいろいろありまして、そのことを最初に紹介しておきます。実は混乱していて私にも良く判らないのですが、出版順に並べると以下の通りです。

1921年 初版(ロシア音楽出版所)
1929年 訂正版(ロシア音楽出版所)
1943年 いけにえの踊りの改訂版(AMP)
1947年 改訂版(ブージー)実際には誤りを訂正したもの
1965年 上記を更に訂正したもの(ブージー)
1967年 単に版を組み替えたもの(ブージー)
2000年 批判校訂版(クリントン・ニューウィグ校訂カーマス)

最も多く録音されているのが1947年版でしょう。初演者モントゥーやアンセルメが拘ったのが1929年版でしょうか。現物を見比べたことが無いので詳しいことは判りません。私がいつも見ているのは1947年版。

最近では2000年のクリティカル・エディションが使われるのではないかと思います。特にそのことを謳ったコンサートやレコードはないようですが、新しい指揮者は新版に触れる機会が普通なのじゃないでしょうか。カリニャーニさんはどうするのでしょう。尤も暗譜されてしまっては、如何なるスコアを使用するか傍目では判りませんね。

編成は書くのもいやになりますが、折角だからやって見ましょうか。
フルート5(3番奏者は第2ピッコロに持替、4番奏者は第1ピッコロに持替、5番奏者はアルトフルートに持替)、オーボエ5(4番奏者は第2イングリッシュホルンに持替、5番奏者は第1イングリッシュホルンに持替)、クラリネット5(2番奏者は第2バスクラリネットに持替、3番奏者はSクラリネットと1番バスクラリネットに持替)、ファゴット5(4番奏者は第2コントラファゴットに持替、5番奏者は第1コントラファゴットに持替)、ホルン8(7番・8番奏者はワーグナーチューバに持替)、トランペット5(4番奏者はバストランペットに持替)、トロンボーン3、チューバ2、ティンパニ2、打楽器4人、弦5部。打楽器は大太鼓、タムタム、トライアングル、タンバリン、ギロ、シンバル、クロタル(アンティックシンバル)。
あぁ草臥れた。間違っていたら誰か訂正してくださいね。

聴きどころなんて捜す時間もありませんが、基本には民謡素材がありますね。初演のときは大変なスキャンダルになったそうですが、それは成功の証。現在では耳に快いと感ずるまでになっています。それは民謡素材がベースにあることと無関係ではないと思います。

変拍子が有名で、特に最後の「いけにえの踊り」は有名です。これも後世の研究では計算づくなのだそうですね。皆さんも法則を見出して暗誦してみては如何でしょう。頭の体操になります。これが聴きどころかな。

レコードはいやと言うほど出ています。各自お好みの演奏で、暗譜するまで予習してください。

当初、3曲まとめて聴きどころ、と考えていましたが、やり始めたら長くなってしまいました。ラフマニノフは別にしましょう。またハルサイも思いついたら書き込みます。

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残る1曲、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番についても書いてしまいます。この名曲が定期演奏会の曲目に上るのは反って珍しい位ですね。名曲コンサートの定番でしょう。

さて日本初演はというと、これも明記したものが見当たりませんので、日本のオーケストラにおける定期演奏会初登場の記録です。以下のもの。

1928年9月30日 日本青年館 マキシム・シャピロ(ピアノ独奏) 近衛秀麿指揮・新交響楽団(現N響) 第34回定期演奏会。

次にオーケストレーションですが、これは極めて標準的な2管編成です。即ち、
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、打楽器2人、弦5部。打楽器は大太鼓とシンバル。

ただ、チョッと変った版がラック Luck という出版社から出ていまして、それは第3楽章の練習番号31の16小節前、有名な第2主題でオーボエとヴィオラが美しいテーマを出しますが、ここでイングリッシュホルンを指定しているものがあるそうです。
そう聞くとなるほど、と感心してしまいます。一層ラフマニノフ独特のメランコリーが強調されるようですね。誰のアイディアでしょうか。夥しいレコードの中には、これを採用したものがあるかも知れません。

さて改まって聴きどころ、というのも迷ってしまいます。個人的な話で恐縮ですが、今年はラフマニノフづいていまして、読売日響の5月定期は交響舞曲集の素晴らしい演奏に接することが出来ました。
先日は京都市交響楽団の定期にパガニーニの主題による狂詩曲が掛かりまして、ソリスト小川典子を聴くために京都まで遠征して来たばかりです。この曲についても「聴きどころ」紛いの感想を日記に書きました。興味がある方はご面倒でも私の日記を見てください。私の場合、「読み逃げ」は全く気にしませんから、ご自由にどうぞ。

ということで第2協奏曲。ラフマニノフの代表作に挙げられる位ですから、ラフマニノフらしさが最も良く出た作品です。

私が特にラフマニノフの特徴と考えているのは、次の2点です。第1は、3連音譜の多用。これをまるでオスティナートのように延々と続け、波間に浮かぶ小船に乗っているような錯覚に誘い込むところでしょう。時にアクセントをずらすことによって、何となく不安な気持ちを醸し出すのも見事。

第2は、彼独特のメロディー・ラインの仕掛けですね。それは第1拍目の音を無音にすること。即ち、「うん」という休拍のあとにメロディーを続けるのです。
モーツァルトにしてもベートーヴェンにしても、いわゆる西洋クラシック音楽では普通、1拍目から音が入ります。ラフマニノフはわざとここを外しますので、純粋に西洋の耳には違和感があるというか、異国的な雰囲気を感ずるのかも知れません。

第2協奏曲では、第3楽章の第2主題、映画にも使われた名旋律がこのパターンです。第1楽章でも、最初の主題は最初から音が出るものの、これに続くチェロの副主題がそうですし、俗に第3主題と呼ばれる木管とピアノソロが1小節ずらせながら歌っていくメロディーもこのパターンです。

そして上記二つの特徴、3連音譜の連続と、「うん」開始のメロディーが同時に進行して行くのが、あのやるせない第2楽章の主題なのです。
ですから私にとって第2ピアノ協奏曲は最もラフマニノフらしさが聴かれる作品。素直にこの仕掛けに嵌ることが最大の聴きどころでしょう。

ところで「うん」開始のメロディーというのは、我が日本の演歌の特徴でもあります。皆さんお好きな歌のいくつかを思い浮かべてください。「うん」で始まる名旋律が如何に多いことか。

実はラフマニノフの好き嫌いは、ここで決まるような気がします。私は若い頃、ラフマニノフは大の苦手でした。しかし上記のような秘密を探り当てた今は、ラフマニノフ・アレルギーは無くなりましたね。むしろそれを楽しむ感じ。

第2ピアノ協奏曲を聴くときに、何処がラフマニノフをラフマニノフとして感受するかを考えながら聴いてみるのも、また一興ではないでしょうか。

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