復刻版・読響聴きどころ(21)

オスモ・ヴァンスカが本格的にベートーヴェン交響曲ツィクルスを開始した2007年11月。先ずは定期の第1番と第2番から。

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11月の読売日響はオスモ・ヴァンスカの担当、ベートーヴェン交響曲シリーズをスタートさせます。これが交響曲全曲演奏にまで発展するのかどうかは判りませんが、今年は第1番から第3番までが演奏されることになっていますね。定期では1番と2番、プログラムの最初にシベリウスの短い管弦楽作品が添えられています。

ベートーヴェンから行きましょうか。今更ベートーヴェンの交響曲の聴きどころ、というのは難しいですね。クラシック音楽を聴き込んでいるファンにとっては、夫々聴きどころをお持ちでしょうし・・・。

最初に日本初演情報。
第1交響曲の初演は非常に有名で、日本における最初のオーケストラ演奏としても話題に挙がるものですね。
1887年(明治20年)2月19日 音楽取調掛卒業演習会。「音楽取調」とか「演習」などという表現は、今日では使われません。このとき演奏されたのは第2・第3楽章のみだったようです。

完全な全曲演奏の日本初演は、
1920年(大正9年)6月12日 奏楽堂 クローン指揮・東京音楽学校ですね。
また日本のオーケストラ定期演奏会の初登場は、
1934年(昭和9年)10月25日 日比谷公会堂 近衛秀麿指揮・新交響楽団(N響)の第145回定期演奏会でした。

第2も紹介しましょう。日本初演は、
1930年(昭和5年)1月26日 日本青年館 近衛秀麿指揮・新交響楽団でした。これは同響の第62回定期演奏会でのことです。

次にオーケストラ編成。いうまでもなく、当時の管弦楽の標準である2管編成ですね。フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ,弦5部です。これは1番・2番に共通した編成です。弦5部については、現在では最大で16型、指揮者によっては10型までありだと思いますが、ヴァンスカはどう対処するでしょうか。この辺も注目したいですね。

編成に拘ります。ベートーヴェンがこれらを作曲した当時のウィーンの宮廷オーケストラは、ほぼ30人。弦楽器の編成は4-4-2-2-2だったそうです。現代のオーケストラに比べて、圧倒的に弦楽器が少ない。最近ではここに注目し、弦を大幅に減らし、楽器も当時の仕様に戻して演奏するのが一種の流行になっています。いわゆるピリオド系の演奏スタイルですね。ヴァンスカはこの流れに乗る指揮者ではない、と認識しています。

使用する楽譜もいろいろ話題になります。ヴァンスカのこの点に関する見解は判りませんが、ベーレンライター版を使用する指揮者が増えてきているようです。しかし、ブライトコプフ版との違いは僅かでしょう。あまり気にしないで楽しんだ方が良いと思っていますね。

それより、ベートーヴェンが初版のスコアに書いた献呈文に注目したいと思います。フランス語で書かれていますが、楽器編成の下りは以下の通りです。

第1交響曲
Grande Simphonie pour 2 Violons, Viole, Violoncelle et Basse, 2 Flutes, 2 Oboes, 2 Cors, 2 Bassons, 2 Clarinettes, 2 Trompettes et Tymbales 。
第2交響曲
Grande Sinfonie pour 2 Violons, Alto, 2 Flutes, 2 Hautobois, 2 Clarinettes, 2 bassons, 2 Cors, 2 Trompettes, Timbales, Violoncelle et Basse 。

どうです、微妙に違うでしょ。スペルじゃなく、楽器の並び順です。第1は弦5部が最初に書かれ、次が木管ですが、ホルンが間に入っていますし、クラリネットが一番下。最後がトランペットとティンパニ、となっていますね。
一方第2は、弦楽器のうち、チェロとコントラバスが他から切り離されて最後に書かれています。木管は現在と同じ順序に変わっていますし、その後に金管とティンパニというのも現行に同じですね。ただ、現在と決定的に違うのは、ヴァイオリンとヴィオラが最初に書かれていること。

実は、ベートーヴェンの手書きスコアは、この献呈文の順の通りに楽器が並べられているらしいのです。らしい、というのは、私は実際に見たことはないのですが、故柴田南雄氏が書かれたものには、“現行のスコアは第9以後の習慣に従って順序が直されており、本当はベートーヴェンの第8までとシューベルトの未完成などは、この配列のように印刷されるのが望ましい”とあるのですね。

つまりベーレンライターにせよブライトコプフにせよ、楽器の配列は現代の習慣を踏襲しています。もしベートーヴェン作曲当時の音楽の姿を思い浮かべるなら、スコアに書かれる楽器の配列を元に戻すべきでしょう。それによつて音楽の風景が変わって見えることは確実だと思います。

ベートーヴェンは交響曲に次々と新しい試みを取り入れ、彼に続く世代に大きな影響を与えました。一般的に第1と第2はハイドンやモーツァルトの古典派の影響が濃い、と言われていますが、上記の楽器の配列からも、ベートーヴェンの試行錯誤、作曲に当たっての考え方が垣間見えるような気がします。

第1はあくまでも弦楽四重奏(弦5部)が主体、徐々に管楽器が加わりますが、ホルンは木管のグループ。その中でもクラリネットは新参者として末席を汚している。金管(トランペット)とティンパニは「打楽器」としてオーケストラを支えていく楽器。

第2では、弦楽器は高音と低音に分割され、現代と同じ役割として木管楽器が認識されており、クラリネットもその一員として完全に木管の仲間入りを果たす。ホルンはトランペットと同様に金管楽器としての役割を担う。

第1と第2の間にも、これだけの思考の前進がある。これって、立派な聴きどころになるのじゃないでしょうか。

普通の楽曲解説、作品聴きどころは当日のプログラムを読んでください。レコードも夥しい数が売られていますから、皆さんの好みに合う指揮者の演奏で予習して下さい。
また思いついたら追加することにして、稿を改めてシベリウスに移りたいと思います。

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さてシベリウスの「イン・メモリアム」ですが、楽譜が手元にありません。従って、あまり細かい点にまで触れることが出来ませんので、ご容赦願います。なお、スコアが欲しい方は、カーマス社から大版が出版されていますので、入手は可能でしょう。

もう一つ、この作品には二つの稿がありまして、カーマス版は1910年の改訂版です。イン・メモリアムと言えば普通はこの版のことでして、今回もこれで演奏されるのではないか、と思います。
初稿は1909年のもので、実はヴァンスカ氏自身が、両稿を1枚のCDに収めたものが発売されていますね。初稿は世界初録音です。比べてお聴きになりたい方は、BIS-CD-1485という品番で探してみて下さい。

二つの稿の違いはですね、冒頭、ヴァイオリンと木管にメロディー・ラインが聴こえるのが初稿。いきなり葬送行進曲のリズムがティンパニと低弦に出てくるのが改定稿です。

作曲の経緯等はプログラムに任せます。最初の発想は政治的な事件に絡んだものでしたが、稿を練るうちにシベリウス自身が病気に罹って死を意識。自らへの葬送行進曲としても構想したようです。
実際にシベリウスの葬儀でも演奏されています。しかしそれは遥かに後年のことでした。

葬送行進曲ですから、前例としてベートーヴェンの第3交響曲の第2楽章、ワーグナーのジークフリートの葬送行進曲がシベリウスの脳裏を掠めたとしても不思議ではありません。
また当時ベルリンで聴いたという、マーラーの第5交響曲の葬送曲の影響を指摘する解説もあります。

確かに前記CDで聴いてみると、ベートーヴェン+ワーグナー+マーラー、として聴けなくもありません。特に打楽器の扱いなどにはマーラーを連想させるものがあります。しかし語法はあくまでもシベリウスそのもの。演奏時間は10分チョッとの短いものです。

オーケストラ編成は、フルート2、オーボエ2、イングリッシュ・ホルン、クラリネット2、バス・クラリネット、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、シンバル、大太鼓、小太鼓、弦5部です。
今回の定期演奏会、最大の編成になります。

日本初演については不明。オーケストラの定期演奏会記録集には見当たりませんでした。当然、私がナマで体験するのは、今回が初です。

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