栄冠はフランスに!
昨日のニューマーケット、何はさておき2000ギニー(GⅠ、3歳、1マイル)のレポートから行きましょうか。既に速報などでご存じのように、フランスから唯一挑戦してきたマクフィ Makfi が大番狂わせの主役になりました。
今年の出走馬は19頭。最終的にはイーヴン(2倍)にまで上がったセント・ニコラス・アベイ St Nicholas Abbey がやや被った1番人気に支持されていました。次いではクレイヴァンに勝ったエルーシヴ・ピンパーネル Elusive Pimpernel が9対2で2番人気、3番人気は8対1のオウザーン Awzaan と続きます(実況放送を聞いた結果、アウザーンをオウザーンに訂正しましょう)。
レースは、ほぼ中央の11番枠からスタートしたディック・ターピン Dick Turpin が押し出されるように先頭。主力馬はジックリ控える作戦で、ペースはスローに流れます。
ムルタ騎手の本命セント・ニコラス・アベイをマークして進んだマクフィのクリストフ・ルメール騎乗は、ムルタの動きが悪いと見るや馬群を縫うようにスパートし、逃げ込みを図るディック・ターピンを捉えて1馬身4分の1差を付ける快勝です。
3着には、一瞬勝ったかに見える脚を使ったキャンフォード・クリフス Canford Cliffs が半馬身差で食い込みました。
以下、4着にエクステンション Xtension 、2番人気のエルーシヴ・ビンパーネル5着、本命セント・ニコラス・アベイはワンペースのまま6着敗退。3番人気のオウザーンは15着惨敗に終わりました。
結局1番人気から3番人気までは全て入着を逃し、勝った馬は何と33対1という大穴。
33対1の馬が2000ギニーを制したのは、1975年にセシル厩舎のボルコンスキー Bolkonski がアッと言わせて以来のことでしょう。
またフランスから遠征してきた馬の優勝は、確か1995年のペニカンプ Peenekamp (アンドレ・ファーブル厩舎)以来のことで、これまた15年振りの快挙となります。
マクフィを管理するミカエル・デルザングレ Mikel Delzangles は今年39歳の若手調教師。アラン・ロワイヤー=デュプレ師とジミー・フィッツジェラルド師の下で研鑽を積んだ人で、イギリスでは(もちろん日本でも)無名の人。開業は2001年で、クラシック・レースはこれが初制覇となります。
イギリスでは2005年のキングズ・スタンド・ステークス(ヨーク競馬場の代替開催)をチヌール Chineur で制したことがありますね。
騎乗したルメールは日本でもお馴染の名手。去年のジャパン・カップでウォッカを再生した腕はヨーロッパでも賞賛されています。
ルメールくん、ニューマーケット競馬場のロウリー・マイル・コースも滅法得意としていて、既に1000ギニー(2008年のナタゴラ Natagora)、クィーン・エリザベスⅡ世ステークス、チーヴリー・パーク・ステークス、チャンピオン・ステークスと数々のGⅠ戦をものにしています。ギニーは一昨年に続くダブル達成。
勝ったマクフィは、実は2歳時はイギリスのマーカス・トレゴーニング厩舎に所属していたのですが、去年の秋にシェイク・ハムダン・アル・マクトゥームが2万6千ギニーで購入、移籍後にフランスでデビュー戦に勝っていた馬。
このトレードは、オーナー・サイドがデュバーウィ Dubawi 産駒をどうしても欲しがったから。デュバーウィはダービー3着で今年のクラシック・ジェネレーションが初年度に当たりますが、産駒は最初から素晴らしい活躍を見せていますからね。
その1頭であるマクフィ、今シーズンはメゾン=ラフィットでジェベル賞に快勝(日記参照)、2000ギニーが3戦目で、これで3戦無敗となります。
デルザングレ師はジェベルに使う前からイギリス遠征を考えていて、5着に健闘できればと考えていたというのが本音。嬉しい誤算と言えるかも知れません。
マクフィはダービーには目もくれず、ロイヤル・アスコットのセント・ジェームス・パレス・ステークスを狙う由。
2・3着したディック・ターピンとキャンフォード・クリフスは共にリチャード・ハノン厩舎の管理馬。クラシック制覇は逃したものの(ハノン師は未だ2000ギニーに勝っていません)、結果には大満足でしょう。
逃げて粘ったディック・ターピンは、最後は馬場の中央から外ラチ(スタンドから見て)によれていたので、明らかに1マイルは長過ぎる感じ。恐らく今後はより短い距離で活躍するタイプでしょう。
一方敗れたオブライエン陣営、3頭出しで6着(セント・ニコラス・アベイ)、7着(フェンシング・マスター)、11着(ヴァイカウント・ネルソン)に終わりましたが、失望はしていない様子です。
そもそもセント・ニコラス・アベイの大目標はエプサム・ダービーであって、2000ギニーはあくまでもトライアルの一戦と見做しているのだそうです。最初は別のダービー・トライアルを考えていたのですが、調教の状態があまりにも良く、タイムも自厩のマイラーより速いことからギニー挑戦に踏み切ったのだとか。
レースでは平均ペースのままで一瞬の脚が無く、ペースがスローだったことも敗因に挙げられるでしょう。
セント・ニコラス・アベイが2歳時に勝ったレーシング・ポスト・トロフィー(GⅠ、1マイル)は本来ダービーを狙う馬がトライアルに使うレース。これに勝って2000ギニーも制したのは、1972年のハイ・トップ High Top だけという記録もあります。セント・ニコラス・アベイはジンクスを覆すことはできなかった、ということになるでしょうか。
さてクラシック回顧はどうしても長くなりますが、この日のニューマーケット競馬場ではあと二つのパターン・レースが行われています。それを手短に。
まず2000ギニーの一つ前に行われたジョッキー・クラブ・ステークス(GⅡ、4歳上、1マイル4ハロン)は僅かに5頭立て。
ここは7対4の1番人気に支持されたジュークボックス・ジャリー Jukebox Jury が格の違いを見せつけて圧勝しています。
2着は3馬身4分の3でナントン Nanton 、3着も更に同じく3馬身4分の3差が付いてクレルモン Claremont の順。
勝馬を調教するマーク・ジョンストン厩舎は、この日の第1レースに続いてダブル達成です。騎手はロイストン・フレンチ。
ジュークボックス・ジャリーは去年ドイツでGⅠ(オイロパ賞)を制しましたが、冬場のドバイでは凡走していました。
今回はレースに集中させるためにブリンカーを使ったのが功を奏したようです。
このあとはコロネーション・カップからエクリプス・ステークスへと、クラシック距離の王道を歩む路線が検討されています。
2000ギニーのあとに行われたのはパレス・ハウス・ステークス(GⅢ、3歳上、5ハロン)。スプリンターのレースで、早くも3歳馬にも出走が認められています。
今年はその3歳馬2頭を含む12頭が出走し、1番人気(5対2)は、去年の8月に有力馬の1頭であるボーダーレスコット Borderlescott を破ったことのあるアムール・プロパー Amour Propre 。
しかし本命馬は8着惨敗で、勝ったのは5対1に支持されたエキアーノ Equiano 。スタート良く飛び出して、そのままの逃げ切り勝ちです。
2着は4分の3馬身追い込み及ばず8歳のボーターレスコット、更に半馬身で3着にはブルー・ジャック Blue Jack が入りました。
エキアーノはバリー・ヒルズ調教師、マイケル・ヒルズ騎手の親子コンビ。今年はクレイヴァン開催でアバーナント・ステークスを1番人気で制していましたが、それは日記でも報告しましたね。
同馬はロイヤル・アスコットのキングズ・スタンド・ステークスが目標。去年までは成績にムラが多かったエキアーノですが、今年は快調に2連勝です。
これで今回のレポートは終わりじゃありませんよ。5月1日はフランスのサン=クルー競馬場でも興味深いパターン・レースが行われています。ミュゲ賞(GⅡ、4歳上、1600メートル)。
出走は8頭ですが、去年のフランス1000ギニー馬エルーシヴ・ウェイヴ Elusive Wave とフランス2000ギニー馬シルヴァー・フロスト Silver Frost が久し振りにターフに登場し、しかも去年のミュゲ賞1・2着馬であるヴェルティジヌー Vertigineux とグリ・ド・グリ Gris De Gris の再対決が見られるのです。
レースは1番人気のグリ・ド・グリが快調に逃げて粘りましたが、これをマークした16対5のバイワード Byword が並びかけ、最後の2ハロンは2頭の首の上げ下げとなる大接戦。
結局バイワードがグリ・ド・グリを短頭差で競り落としました。3着は1馬身半差でドイツから遠征してきたセーレザド Sehrezad が食い込んでいます。
長期休養明けとなるエルーシヴ・ウェイヴは5着。これから順調に仕上がっていくことに期待しましょう。
一方シルヴァー・フロストはスタートも出遅れて7着ブービー。こちらも去年の8月に膝の手術をして以来の実戦ですから、一叩きして変わるかどうか、でしょう。
2着のグリ・ド・グリ、実は2008にミュゲ賞を制しており、去年と今年で2年連続2着。今年のエドモン・ブラン賞での復活劇もレポートしたばかりです。
今年6歳ですが、まだまだ粘り腰は健在と言えるでしょうか。
勝ったバイワードはカーリッド・アブダラ氏の所有馬で、6戦4勝4着2回の堅実な成績。パターン・レースは初勝利となります。
調教師はアンドレ・ファーブル、騎手はマクシム・グイヨンのお馴染のコンビ。このあとはGⅠ戦のイスパハン賞を目指すはず。
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