強者弱者(85)

汐干狩

 汐干狩、小娘の干潟に興じあへるさまを見て、『自然の無尽蔵より人の子の盗み得る少許の獲もの』といへる詩のこゝろを偲び出でたるもをかし。此頃、冴え返りて寒さ身に沁むことあり。若き女の紅鶴色の肌衣に白き脛のあたりを見せたるはなまめかしけれど唇を紫色にして打ふるへたるは興さむる心地す。沖に漕ぎ出でて汐の干たるに春雨の降り出でたるばかりたよりなきは無し。

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未だ少し早いような気もしますが、汐干狩りの話題です。

現在の東京では珍しい光景になってしまいましたが、私が子供の頃でも羽田沖では汐干狩りが出来ましたし、千葉県の幕張は絶好のポイントでした。
拙宅では鶏を飼育していましたので、貝殻を確保する必要もあり、よく羽田などに遠征したものです。ただ時期は5月の連休ごろが多かったような記憶もあります。

『自然の無尽蔵より人の子の盗み得る少許の獲もの』という詩が何処から引用されているのかは不明。御存知の方いらっしゃいますか?

「紅鶴色」は「ときいろ」とルビが振られています。「トキ」は現在では「朱鷺」と当てるのが普通でしょうが、「鴇」もありますし、「紅鶴」も可。淡いピンク色のことです。
100年前、明治末年では未だトキは絶滅していませんでした。

若き女の「脛」(はぎ)を艶めかしく感じるあたりは如何にも明治ですね。「ふくらはぎ」のことです。

 

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