強者弱者(100)

暮春の恨

 暮春の恨綿々として尽きず。行く春の悲は春浅き日の愁ひにくらべて浅けれども長し。青麦の波五月晴の空に連り、柴笛吹きすまし行く村童の姿を蔽ひたる、菜種の莢の日毎ふくらみ行くにつれ白き大根の花の代りに咲き出でたる、碎米菜の花小さくなりまさりて苜蓿の葉のみ生ひ茂りたる、ふみよむ人に非ずといひて誰か茫々蒼々の天地に恨みざる。

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春の愁いを綴った一文です。

「柴笛」(しばぶえ)は、椎や椿の葉を唇に当てて吹く葉笛のこと。

「碎米菜」は「げんげ」、「苜蓿」は「うまごやし」、どちらも既に取り上げました。

「茫々蒼々」(ぼうぼうそうそう)とは、葉が青々と生い茂り、何処までも果てしもなく続いている光景を描いているのでしょう。正に暮春の恨み。

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