フレンチ・ダブル

昨日ニューマーケット競馬場で行われたクラシック第二弾、1000ギニー(GⅠ、3歳牝、1マイル)の結果が入ってきました。先にタネ明かしをしてしまうと、鼻づらを揃えてゴールインした2頭。写真判定の結果出された着順が、裁定室で入れ替わるという事件になっています。

当初18頭が登録していましたが(5月1日の日記参照)、11番枠のパフ Puff が取り消して17頭がスタートを切りました。

ニューマーケットの多頭数ではしばしば見られますが、スタートするや馬群は内外に大きく分かれます。最後は二つの馬群が寄ってくるのですが、大半は恰も二つのレースが同時に進行しているようにも見えましたね。

ゴールが近付くにつれてハッキリしてきたのが、スタンドに近い側が断然有利に展開していること。このグループは7頭で構成されていましたが、トム・クィーリー騎乗の4枠ジャクリーヌ・クエスト Jacqueline Quest とステファン・パスキエ騎乗の1枠スペシャル・デューティー Special Duty が抜け出し、激しく競り合いながら2頭が鼻づらを揃えてゴールイン。写真判定に持ち込まれました。

暫くしてチャイムが鳴り、“1着ジャクリーヌ・クエスト、2着スペシャル・デューティー”とのコールにスタンドがどっと沸きます。
しかしドラマはこれで終わりではありません。直ぐに審議がアナウンスされ、最終的に出された結果はジャクリーヌ・クエストが鼻差で1着入線したものの、進路妨害と判断され2位入線のスペシャル・デューティーが繰り上がって優勝、ジャクリーヌ・クエストを2着降着とする、というものでした。

3着には頭差でギル・ナ・グレイナ Gile Na Graine (これまでジル・ナ・グレーンと表記していましたが、実況を聞いた結果、こう改めます)が入り、以下4着にセント・フロム・へヴン Sent From Heaven 、5着はディスティンクティヴ Distinctive の順。
枠順と対照するとよく判りますが、上位入線馬の枠順は1→4→2→6→7。如何に内枠(スタンドに近い側)が有利だったが分かるでしょう。

結果的には勝ったスペシャル・デューティーが9対2の1番人気に応えた形ですが、実際に先頭でゴールインしたジャクリーヌ・クエストは66対1という超穴馬。入線通り確定していれば大変な配当になったことになります。

横から見た映像では見難いのですが、正面から捉えたカメラでみるとジャクリーヌ・クエストが急激に右によれ、スペシャル・デューティーに二度ぶつかっているのが確認できます。ジャクリーヌ・クエストのクィーリー騎手が左ムチを使っていたのが致命的で、これがパスキエ騎手の進路を塞いだと判断されました。

2頭夫々にドラマがありましたね。

ジャクリーヌ・クエストの調教師は名伯楽ヘンリー・セシル。もし勝てば英国のクラシック25勝目、1000ギニーは7勝目になるはずでしたが、残念な結果でした。

ドイツ人馬主のノエル・マルタン氏は、1996年にネオ・ナチのグループに襲撃されて手足を失う負傷を負った方。4年半の入院生活の間に、ベッドからこの馬を購入した経緯があります。
馬名のジャクリーヌ・クエストは、3年前に亡くなった愛妻に因んで命名した名前。“たとえ審判が勝利を裁決室で奪っても、勝馬は勝馬” と悔しさを隠せません。

一方スペシャル・デューティーはフランスのクリティック・ヘッド=マーレク姉さんの調教馬。彼女は1983年のマ・ビッシュ Ma Biche 、1988年のラヴィネラ Ravinella 、1992年のハトゥーフ Hatoof に続いて1000ギニー4勝目。
前日の2000ギニー(マクフィで制したミカエル・デルザングレ師)に続いてフランスのクラシック・ダブルとなりました。

ヘッド師は、進路妨害がなければスペシャル・デューティーは楽勝していたはず。裁定はフェアーだというコメント。これはパスキエ騎手も同じ意見です。

クラシックレースで進路妨害により着順が変更されたのは、1980年の2000ギニー以来のこと。あの時はフレイエフ Nureyev が失格し、ノウン・ファクト Known Fact が繰り上がったのでしたっけ。

先ほど確認したテレビ画面では、ヘッド師とセシル師が言葉を交わし、最後は抱き合っていたシーンが映し出されていたのが感動的。もしかするとこの映像、近々放送予定のNHK・BS1で見られるかも知れませんよ。

スペシャル・デューティーは冬場は1000ギニーの固い本命と目されていましたが、ヘッド師によれば調整が上手くいかず、シーズン・デビュー戦で敗退して人気を少し落としていました。
今日は遅れを取り戻して100%の状態。

このあとはもちろんオーナーであるプリンス・カーリッド・アブダッラーと協議の上ですが、中1週でフランス1000ギニーへの出走も考えている由。
いずれにしてもアスコットではジャクリーヌ・クエストとの再戦が見られるでしょう。その時が真の決着となるか・・・。

さてこの日は1000ギニーの前にダーリア・ステークス(GⅢ、4歳上牝、1マイル1ハロン)も行われています。牝馬の早すぎる引退に歯止めをかけるべく近年に創設された古馬牝馬戦ですね。

10頭の登録がありましたが、期待の去年のオークス・愛オークス馬サリスカ Sariska ともう1頭が取り消し、結果8頭立てで行われました。

11対8の1番人気に支持されたストローベリーダイキリ Strawberrydaiquiri という馬が人気に応えています。
2着は頭差でホニミエール Honimiere 、3着は更に4馬身離されてスペイシャス Spacious の順。

勝ったストローベリーダイキリは、サー・マイケル・スタウト厩舎、ライアン・ムーア騎乗の名コンビ。去年はリステッド戦に3勝し、これがパターン・レース初勝利となります。

レースはホニミエールが逃げ、これをストローベリーダイキリが楽に捉えて先頭に立ったのですが、ホニミエールが果敢に差し返し、最後は接戦にもつれ込みました。

さて日曜日はロンシャン競馬場でもGⅠを含む3つのパターン・レースが行われています。まだ公式記録を入手していないので結果を簡単にレポートしておきましょう。

ヴァントー賞(GⅢ、3歳牝、1850メートル)はオークス・トライアル。わずか5頭立てでしたが、1番人気に支持されたザゴラ Zagora が人気を裏付けるように全くの楽勝。2着に2馬身半差でオン・ヴェラ On Vera 、頭差3着に逃げたゴールド・ハーヴェスト Gold Harvest が粘り込んでいます。

ザゴラはジャン=クロード・ルジェ厩舎、クリストフ・スミオン騎乗。
実はこの馬、アメリカ人馬主のマーチン・シュヴァルツが先月購入したばかりの馬で、ルジェ厩舎に入ってまだ15日しか経っていない由。事前の調教も軽かったので、ルジェ師も“これはこれまで調教してくれたイヴ・ド・ニコライのお陰だよ” と正直に告白しています。

このあとはフランス・オークスに直行するローテーション。

2着に入ったオン・ヴェラのフランソワ・ドゥーメン調教師は、ペースがスローに流れ、加速に時間がかかる同馬には不利な展開だったとコメントしています。

続いてフランス最初のGⅠであるガネー賞(GⅠ、4歳上、2100メートル)。
9頭が出走し、ここも1番人気(6対5)を集めたカットラス・ベイ Cutlass Bay が快勝しています。
2着はこれがシーズン初戦となるシャラナイア Shalanaya で4分の3馬身。3着にはパローディオ Pallodio の順。

勝ったカットラス・ベイはアンドレ・ファーブル厩舎、マクシム・グイヨン騎乗。この勝利で無敗記録を5戦5勝に伸ばしました。もちろんGⅠ初制覇。

この馬についてはダルクール賞(4月12日の日記)でも紹介しましたが、フランス期待の古馬の星。

レースは逃げ馬不在。仕方なく外枠から発走したシャラナイアのルメール騎手(前日2000ギニーを制したばかり。この馬もデルザングレ厩舎ですぞ)が先頭に立ち、カットラス・ベイは4番手を進む展開。

最後の勝負所、グイヨンのゴーサインに応えたカットラス・ベイの瞬発力は正にスーパー。最後は右によれる場面があったものの、まだ余裕が感じられる楽勝でした。
同馬はまだ1マイル半での経験はありませんが、後方待機で余力を残す競馬が出来れば十分克服可能でしょう。

一方負けたシャラナイヤは、これがシーズン初戦だったこと、仕方なく先頭に立ったことでペースが極端に遅かったこと、最後で騎手がムチを落とすアクシデントがあったことなどを考えれば、上出来の結果だと言えるでしょう。
レース後のルメールくん、“これじゃガネー賞じゃなく、エスカルゴ賞だよ” は言い得て妙。分かるかなぁ~。

これからのGⅠ路線でのカットラス・ベイとシャラナイアの対決がいよいよ楽しみです。

最後は長距離戦のバルべヴィユ賞(GⅢ、4歳上、3100メートル)。
ここも6頭という少頭数でしたが、最後は20分間の審議になる大接戦。最終的には入着順通りで確定し、優勝はブレク Blek 、首差2着に1番人気のヴェテラン馬カスバー・ブリス Kasbah Bliss という結果。

ブレクはエリー・ルルーシュ厩舎、アンソニー・クラスタス騎乗。逃げるトレ・ロック・ダノン Tres Rock Danon を2番手追走し、直線で抜け出すというレース振り。いつものように最後方から急襲するカスバー・ブリスの追い込みを辛うじて抑えての勝利でした。

同馬にとってこれがパターン・レース初勝利。1・2着馬共にロイヤル・アスコットのゴールド・カップを目標にします。

ブレクはこれまで16戦して賞金の対象にならなかったのが唯の一度だけという馬主孝行の馬。サン=クルー競馬場を得意にしていて、これまで同競馬場6勝の実績があります。

2着のカスバー・ブリスは、ヴァントー賞でも2着に甘んじたフランソワ・ドゥーメン師の管理馬。この日は降雨による重馬場で一歩伸び切れなかったのが敗因とコメントしています。
それにしても直線半ばでは到底無理と思われる位置からの末脚には目を瞠るものがありました。アスコットでは怖い存在となるでしょう。

以上長いレポート、読んだ人はさぞ疲れたでしょう。書いてる私も草臥れましたワ。

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