2010クラシック馬のプロフィール(1)
去年に続いてヨーロッパ主要競馬国のクラシック馬の血統を見ていきましょう。ここでは主に牝系が中心です。
先ずは英国の2000ギニーを勝ったマクフィ Makfi から。
この馬の血統については未だ詳論が出ていないので、私流の考察です。更にこの牝系は日本とも深い繋がりがありますので、その辺りも少し詳しく見ていく積りです。
マクフィは、父が初年度産駒が今年初めてクラシックに出走するデュバーウィ Dubawi 、母はデラール Dhelaal 、母の父はグリーン・デザート Green Desert という血統。
まず母のデラール。読み方がハッキリしません、デーラルと読むのかも知れませんが取り敢えずデラールということで進めましょう。
さてデラールは2001年生まれの鹿毛馬、未出走のまま繁殖に上がったということしか情報が入っていません。マクフィが2007年生まれなので、2006年(5歳のとき)に種付けしたことになります。普通なら第2仔と思われますが、そこがハッキリしません。いずれにしてもマクフィは、デラールの産駒では初めて名前を上げた馬と呼んで差し支えないでしょう。
マクフィの母と兄弟に目立った成績が無いので祖母に行きましょう。二代母はアイリッシュ・ヴァレー Irish Valley 、1982年生まれの栗毛馬、父は名馬アイリッシュ・リヴァー Irish River です。
アイリッシュ・ヴァレーは競走馬としては完全な失敗で、6戦して一度も入着を果たしていません。3歳の7月に走ったのが最後で、このときはブリンカーを装着していますから、よほど集中力の無い競走馬だったと思われます。
ところがアイリッシュ・ヴァレーは繁殖に上がってから豹変しました。現在までの繁殖成績で分かっているものを産駒の生年順に列記すると、
1987 ゲーリック・ミス Gaelic Myth 牡(父・ニジンスキー Nijinsky)
1988 グリーン・ポーラ Green Pola 牝(父・ニジンスキー Nijinsky)
1989 ケルティック・ブレイヴ Celtic Brave 牡(父・シャディード Shadeed)
1990 ハンサム・スター Handsome Star 牡(父・エル・グラン・セニョール El Gran Senor)
1992 フィヌス Finus 牝(父・ナシュワン Nashwan)
1993 アルハース Alhaarth 牡(父・アンフーウェイン Unfuwain)
1995 ダライール Dalayir 牝(父・サドラーズ・ウェルズ Sadler’s Wells)
1997 ジマーン Zimaan 牡(父・アンフーウェイン Unfuwain)
1998 モラヒブ Morahib 牡(父・ナシュワン Nashwan)
1999 アルライハー Alrayihah 牝(父・ナシュワン Nashwan)
2000 モダーファー Modaffaa 牡(父・ダルシャーン Darshaan)
2001 デラール Dehlaal 牝(父・グリーン・デザート Green Desert)
2005 アルマジド Almajd 牡(父・マージュ Marju)
ざっと見て、どれも第一級の種牡馬と交配していることが判ります。この中で競走馬として断然すぐれていたのは、1993年生まれのアルハースでしょう。2歳時にデューハースト・ステークス(GⅠ)などパターン・レースに3勝、クラシックこそ逃したものの、更に欧米でパターン・レース優勝を重ねた名馬です。
マクフィの母となったデラールは2001年、アイリッシュ・ヴァレーの19歳のときの娘ですから、晩年の産駒ということになります。
注目はアイリッシュ・ヴァレーの他の娘たち。牝馬が出る確率が少ないのですが、5頭の娘のうち、何と2頭が日本に輸入されてこの牝系を次の世代に継承しているのですね。
まず1988年のグリーン・ポーラ。この馬は競走馬としても能力が高く、2歳の時にドーヴィルでカルヴァドス賞(GⅢ)に勝ちます。しかし残念ながらこの後で故障、2戦2勝のまま繁殖に上がり、日本に輸出されました。日本での産駒を列記すると、
1995 ケープリズバーン 牝(父・ベーリング)
1997 リビングデイライツ 牝(父・フジキセキ)
1998 ヴェルデマーレ 牡(父・サンデーサイレンス)
1999 モービーディック 牡(父・サンデーサイレンス)
2002 ジェダイト 牝(父・サンデーサイレンス)
2003 レーヌヴェルト 牝(父・フレンチデピュティ)
2004 ドレスデングリーン 牝(父・アグネスタキオン)
2005 グリーンラヴィン 牝(父・トワイニング)
2006 レッドシャガーラ 牡(父・ネオユニバース)
という具合。馬名を見て心当たりのあるファンもおられるでしょうが、どれもそこそこに活躍しています。母と違って産駒に牝馬が多いのも特徴で、中でもオークス6着のジェダイトには繁殖牝馬としての期待も大きいと思われます。
考察が細か過ぎるようなので先を急ぎますと、アイリッシュ・ヴァレーの1995年の娘・ダライールは、2004年生まれにダービー(エプサムの)3着馬アカレーム Aqaleem を出した後に日本に輸出され、日本でも現在までに牝馬を産んでいますから、こちらからも将来の大物が期待される牝系なのです。
マクフィの3代母はグリーン・ヴァレー Green Valley で、これは未出走馬ながら繁殖牝馬として大成功し、13頭もの勝馬の母となりました。皮肉なことに彼女の唯一の未勝利馬がアイリッシュ・ヴァレーなのですね。
グリーン・ヴァレーの産駒ではGⅠに3勝して種牡馬としても成功したグリーン・ダンサー Green Dancer (仏2000ギニーに勝ってクラシック馬の仲間入り)が何としても有名でしょう。
更にグリーン・ヴァレー→ヴァレー・ダンサンテ Valee Dansante →ファンシー Funsie と牝系を下れば、彼の2007年の英ダービー馬オーソライズド Authorized にも行き着きます。(前述アカレームが3着のときのダービー)
グリーン・ヴァレーの娘レンガディーン L’Engadine もまた日本に輸出され、日本でベンケイの母になっていることも付け加えておきましょうか。
これ以上遡ることは止めますが、マクフィの牝系は紛れもないクラック血統であり、たとえ母の競走成績が振わなくとも大物を出す可能性を秘めたファミリーであると言えると思います。
いつの日か日本でもこの牝系からクラシックを賑わす馬が出てくるような気がしませんか。
ファミリー・ナンバーは16-C 。
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