強者弱者(105)

愛国婦人会

 毎年新緑の候を期して市に愛国婦人会の総会開催せらる。初めは青山練兵場を以って其会場に宛てたりしが、中頃、難ずるものありて日比谷公園に変更したり。其主旨は如何にもあれ、煙塵の中に汗と膏とにまみれて立てる兵卒の練兵を外に晴々しく着飾りたる若き女の群れつどひて興がるは心なき業なり。幹部の処置宜しきに適ひたると覚ゆ。此会に就きて思い出づるは、苜蓿の緑帛を敷き詰めたらん如き広場に、白き洋装の婦人の三々五々手をとりて蓮歩を運びたる態なり。闊葉樹林の初夏、緑青の池畔に白鳥の群れ遊べる趣など偲び出でられてゆかし。

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愛国婦人会は、明治34年に傷痍軍人の慰問や救護を目的として設立されたもの。その後昭和期に入ってから性格が変わっていたようです。

その辺の経緯について興味ある方は、各自ネットなどで探してみてください。ただここに指摘されているように、当初は青山練兵場で総会が行われていたようですが、その華やかな催しが兵卒の目に触れるのを好ましいものとせず、会場を他に移すようになった由。この当たりについて触れている文献はあまりないようなので、この文章は貴重なものかも知れません。

「緑帛」は「りょくはく」。帛とは絹のことで、ウマゴヤシを緑の絹に譬えた言い回しでしょう。

「蓮歩」は「れんぽ」。美人がしなやかに歩く様を表現する言葉で、中国の故事から採られています。

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