地元馬が巻き返した愛1000ギニー

昨日の日曜日は府中で優駿牝馬、いわゆる日本オークスが行われて劇的な幕切れになりましたが、ヨーロッパでも4つのGⅠレースで各様のドラマが生まれています。

数が多いのでアイルランド編とフランス編とに分けて報告しましょう。先ずはアイルランド、カラー競馬場の結果から。

とりあえず当ブログのメインテーマであるクラシック・レース、アイルランド1000ギニー(GⅠ、3歳牝、1マイル)です。
枠順紹介に記したとおり、19頭という多頭数の競馬。大混戦が予想されましたが、結果も5頭が同時にゴールインする激戦でした。

優勝は16対1のベトラー Bethrah (これまでベスラーと表記してきましたが、実況ではベトラーと聞こえます)。頭差で2着に15対2のアンナ・サライ Anna Salai 、更に首差3着に3対1の1番人気に支持されたミュージック・ショウ Music Show と続き、4着リメンバー・ウェン Remember When は短頭差、5着リリー・ラングトリー Lillie Langtry も頭差。
5頭がほぼ1馬身以内に犇めく結果です。言い換えれば、このメンバーには図抜けた馬はいなかった、ということになりましょうか。

先行したのはフル・オブ・ホープ Full Of Hope 。これをレディー・ダルシャーン Lady Darshaan 、ギル・ナ・グレイナ Gile Na Greine 、アンナ・サライ Anna Salai などが追走する展開。
届いた映像を見ていると、ギル・ナ・グレイナが脚を無くして後退し、追走馬群に若干のトラブルがあったようにも見えます。

3番手から早めに抜け出したアンナ・サライが逃げ切ったかと思われた瞬間、ゴール直前で内ラチ沿いに進路を変えたベトラーが最内から頭だけ抜け出していました。
惜しかったのは中団待機から追い上げた本命のミュージック・ショウ。勝馬とは1頭挟んで内外が離れていたため、競り合いに持ち込めなかったのが響いたかも知れません。

4・5着は共にオブライエン厩舎の馬。リメンバー・ウェンにはオダナヒュー、リリー・ラングトリーにはムルタが騎乗していましたが、共に一息及ばず。展開次第では別の結果になったかも・・・。

勝ったベトラーは2週間前のデリンスタウン・スタッド1000ギニー・トライアル(5月10日の日記)を首差で制した馬。このトライアルの勝馬はこれまで本番で入着はあるものの、勝った馬はベトラーが初めてじゃないでしょうか。
トライアルの2着馬アタサリ Atasari は本番では12着。勝馬とは6馬身ほどの差がありましたから、ベトラー自身が大きく成長したとも考えられます。

ベトラーを管理するデルモット・ウェルドは地元アイルランドの調教師。愛1000ギニーは、1982年のプリンセス・ポリー Prince’s Polly 、1988年のトラステッド・パートナー Trusted Partner 、2006年のナイタイム Nightime に続く4勝目となります。
騎乗したパット・スマーレンは、2006年のナイタイムに続く2度目の栄冠。

2着のアンナ・サライは先月ロンシャンのグロット賞に勝っていましたが、直後にゴドルフィンが購入してアンドレ・ファーブルの基からザルー二厩舎に転厩していた馬です。

ゴドルフィンのトレード作戦、クラシックの前に行われたトトソルズ・ゴールド・カップ(GⅠ、4歳上、1マイル2ハロン110ヤード)でも勝利には至りませんでした。

こちらは一転、6頭立てという少頭数でしたが、注目はオブライエン厩舎のエース格、フェイム・アンド・グローリー Fame And Glory とガネー賞に勝って5戦無敗のカットラス・ベイ Cutlass Bay の対決にあります。

ゴドルフィンはこのカットラス・ベイに手を出し、アンナ・サライ同様ファーブル厩舎から引き抜いてスロール厩舎に移し、これがゴドルフィンの勝負服での最初のレースとなりました。
人気は、こうした事情も反映したのか、フェイム・アンド・グローリーが8対15で断然の1番人気。カットラス・ベイは2番人気ながら3対1とやや離された人気です。

しかしレースは一方的でした。オブライエンのペースメーカー、ディクシー・ミュージック Dixie Music の逃げを2番手で控えたフェイム・アンド・グローリー、直線でムルタ騎手がゴーサインを出すと、後は後続を引き離す一方。
鞍上は持ったままで2着リチャージ Recharhe に7馬身の大差を付ける独壇場でした。3着は首差でチャイニーズ・ホワイト Chinese White 。

ゴドルフィン期待のカットラス・ベイは、勝馬からは21馬身も離された5着に惨敗。生涯の初黒星を喫しましたが、これまでこの日のカラー競馬場のような固い馬場の経験が無かったことが敗因というコメントが出されています。

エイダン・オブライエン師にとってゴールド・カップは4勝目。2003年ブラック・サム・べラミー Black Sam Bellamy 、2004年のパワースコート Powerscourt 、2008年のデューク・オブ・マーマレイド Duke Of Marmalade に続く栄冠です。

フェイム・アンド・グローリーは、今シーズンこれで3戦2勝。中1週ながらエプサムのコロネーション・カップを目指すでしょう。

去年の快進撃に比べれば物足りない成績に甘んじてきた今シーズンのオブライエン厩舎ですが、漸くここに来て本来の調子を取り戻してきた感があります。やはり例年以上に寒かった今冬の影響が原因だったのでしょうか。

その一つが、この日最初に行われたパターン・レースであるガリニュール・ステークス(GⅢ、3歳、1マイル2ハロン)。

1頭取り消して7頭立てで行われたこのレース、6対4の1番人気に支持されたのはオブライエン厩舎期待のヤン・フェルメール Jan Vermeer 。去年のクリテリウム・インターナショナルの勝馬ですが、冬場の調整が遅れてこれが今シーズンのデビュー戦となります。GⅠ勝のペナルティー(7ポンド)を背負っての出走ですが、ここではモノが違うという期待での本命です。

そしてヤン・フェルメールは見事その期待に応えてくれました。逃げるボビースコット Bobbyscot を中団で待機、直線での反応は瞬時にして圧倒的でした。
2着に逃げ粘ったボビースコットに1馬身4分の3。3着にはシントー Shintoh が入っています。

着差は1馬身4分の3に過ぎませんが、背負った負担重量と馬なりの勝ちっぷりから見て実力は着差以上のものがあるでしょう。
もちろんジョッキーはオブライエン厩舎のエース、ジョニー・ムルタ。

オブライエン厩舎がこのダービー・トライアルに強いことは圧倒的で、これが10勝目。何とこれが5連覇でもあります。
ムルタ騎手もこれが5勝目となり、オブライエンとのコンビでは3連覇という記録。

この勝利でヤン・フェルメールは一気にダービーの2番人気に躍り出ました。1番人気はセント・ニコラス・アビー St Nicholas Abbey で変わりませんが、何のことはない、ここまで来たらオブライエン軍団が1番人気から4番人気までを独占しています。
即ち、セント・ニコラス・アビー、ヤン・フェルメール、ケープ・ブランコ Cape Blanco 、ミダス・タッチ Midas Touch と。

もちろん全てがエプサムに出るわけではありません。これだけ有力馬が揃っているのですから、英仏愛に振り分けてくるでしょう。レースの行われる時期からして、英愛両ダービーに出る馬も出るかもしれません。

ことフランス・ダービー(2100メートル)に関しては、オブライエン師はヴァイカウント・ネルソン Viscount Nelson を指名している位ですから、これからが天才調教師の配分の見せ所と言えるでしょう。

昨日の競馬日記、ここで一旦切り、フランス編に続けます。

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