木下美穂子・ソプラノ・リサイタル/津田ホール

最早世界が注目するソプラノ、木下美穂子が来日してリサイタルを開くというので、千駄ヶ谷の津田ホールに出かけてきました。10月31日。
彼女は最近、ローマからニューヨークに引っ越したということ。アメリカでのデビューも果たしたそうですし、来年早々にはロンドンにもデビューする由。
彼女のリサイタルを聴くのは、去年のフィリア・ホールに次いで2回目。プログラム構成は、そのときと良く似ています。以下のもの。

ヘンデル/緑の牧場よ
A.スカルラッティ/私を傷つけるのをやめるか
A.スカルラッティ/すみれ
グノー/アヴェ・マリア
ルッツィ/アヴェ・マリア
ドヴォルザーク/わが母の教えたまいし歌
プッチーニ/歌劇「蝶々夫人」より ある晴れた日に
マスカーニ/歌劇「イリス」より 私は悲しい夢を見た
~休憩~
ロッシーニ/何も言わずにやつれはてるだろう~非難~
ロッシーニ/何も言わずにやつれはてるだろう~古典風アリエッタ~
ロッシーニ/何も言わずにやつれはてるだろう
ヴェルディ/歌劇「オテロ」より 柳の歌~アヴェ・マリア
ヴェルディ/歌劇「ルイザ・ミラー」より 神様、もし私が貴方をご立腹させたのなら
ソプラノ/木下美穂子
ピアノ/河原忠之

相変わらず素晴らしい歌唱でした。特に十八番、蝶々夫人を歌ってからはエンジン全開というか、圧倒的な歌唱力と表現力で聴衆を虜にしてしまう。いつものとおり、といってもリサイタルは2度目ですが、なのであります。

今回は途中にトークが入りました。この日のリサイタルは「婦人国際平和自由連盟(WILPF)日本支部」の主催であるため、自分としては珍しいグノーとリッツィのアヴェ・マリアをプログラムに加えたことを紹介されました。
この団体は世界最古の女性による平和団体で、日本支部は80年以上の伝統があり、スイス本部は100年の歴史を持つのだとか。
そのせいか、客席は圧倒的に女性、それも年配の方が多く目立ちましたね。
またトークで、彼女自身は絶対に認めたくないとしながらも、如何に自分が「雨女」であるかを強調して客席の笑いを誘っていました。

なるほどそうかもしれませんが、こと私に限っては、木下美穂子と雨は結びつきません。9月の仮面舞踏会は2日目、むしろ暑くて閉口した位ですし、去年のフィリアも小春日和だった、と日記に書いてあります。
唯一、前回の「蝶々夫人」かな。あのときは急な雷雨で電車が止まりましたね。でもね、それ以上にあの日は涙の雨が降りましたよ、上野に。ヤッパリ、雨女かな。

ということで、歌の感想はあまり書けません。良く知っている蝶々夫人とオテロは、それこそオペラ全曲を聴いたような満足感があったし、知らないオペラ、イリスとルイザ・ミラーも劇的な表現力、その演技力に圧倒されました。目と表情、凄いですねぇ~。

ピアノ伴奏の河原忠之がまた素晴らしい人で、ピアノの楽器としての魅力を押し出すのではなく、あくまでも歌曲の伴奏に徹するのです。作品の内容を良く知り、本来のオーケストレーションも完全に手に入れているようで、単なるピアノ伴奏でなく、オーケストラを髣髴させるような交響的表現力でソプラノをシッカリ支えていました。
さすがに小澤征爾が絶賛するコレペティトゥールとしての仕事をこなした人。オテロでのイングリッシュ・ホルンの一吹きも、ピアノであることを忘れさせるよう。
客席もその辺はよく判っていたようで、ブラヴァ、だけでなくブラヴィを掛けている人も目立ちました。ブラヴォ一辺倒だった一昔前から考えると、日本の聴衆もスレッカラシになりましたなぁ。

ところで、プログラムには曲目しか書いてありませんでした。ほとんどの曲を知らない私が悪いんでしょうが、詳しい曲目は当日渡されたパンフレットで知ったもの。少しで良いから、内容も書いてくれると有難かったですね。
で、少しばかり調べてみました。

ヘンデルはわかりません。オペラのアリアなのか、イタリア語歌曲なのか。
二つあるスカルラッティのうち、「すみれ」はフィリアでも歌いましたね。これはどうも歌劇「ピルロとデメトリオ」の中の1曲らしいですね。もう一つの「私を傷つけるのをやめるか」は、歌劇「ポンペオ」のアリアのようです。

マスカーニの「イリス」は、日本を舞台にしたオペラ、「蝶々夫人」とセットにした辺り、中々心憎い選曲じゃありませんか。

ロッシーニの3曲は、木下さんが演奏前にチョッと紹介してくれましたが、同じ歌詞につけた3曲とのこと。これは、どうやらロッシーニ晩年の「老年のいたずら」という作品集、第11巻「声楽の雑曲」という10曲セットに含まれるもののようです。歌詞は、かの有名なメタスタージォです。
リサイタルのプログラムを作るときには、サロンに相応しい作品を取り入れて曲目に変化をつける、と木下さんが言っていましたが、アヴェ・マリアが前半と後半に置かれていたり、オペラの選曲でもヴェリズモとヴェルディでバランスを取ったりと、ただ歌を聴かせるという以上に配慮の行き届いたものでした。

アンコールは二つ。まずプッチーニの歌劇「ジャンニ・スキッキ」から「私のいとしいお父さん」が歌われ、最後は日本の歌曲「宵待ち草」(多忠亮作曲・竹久夢二作詞)が、まるでイタリア歌曲のように歌われました。

 

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