2010東京優駿(日本ダービー)馬のプロフィール
今年の日本ダービーは大穴、31対1のエイシンフラッシュが勝つ番狂わせでした。血統的にマイラーの同馬が勝ったのはペースがスローだったからという論評を読みましたが、果してそうでしょうか。
例によってダービー馬の血統を検討して行きましょう。
エイシンフラッシュは父キングズ・ベスト King’s Best 、母ムーンレディ Moonlady 、母の父プラティニ Platini という血統。
先のマイラー説は父が2000ギニー馬だという単純な発想から出たもので、母の成績を見れば全く逆のステイヤー血統であることが見えてくるじゃありませんか。
最初にお断りしておきますが、この牝系はドイツで繁栄してきたファミリーなので、あまり詳しい競走成績や繁殖成績が判りません。あくまでも判った範囲内での事実だけを取り上げていくことにします。
まず母ムーンレディは、ドイツ競馬界に新しい歴史を刻んだ競走馬であることを大書せねばなりません。
英国での出走が無かったもののレースホース2000年版に記載があり、レートは113と評価されています。
1997年生まれのムーンレディの父は、ドイツとイタリアでGⅠに勝ったドイツ産のプラティニ。1992年のドイツの年度代表馬です。
さてムーンレディは2戦目にミュールハイムで未勝利戦(10ハロン)に勝った後、ハンブルグでドイッチャー・へロルド賞(重馬場の11ハロン)、ブレーメンのリステッド戦(11ハロン)、ハノーヴァーのシュターツパルカッセ・ハノーヴァー賞(12ハロン)と連勝し、遂にはドルトムント競馬場のドイツ・セントレジャー(14ハロン)で2着に4馬身差を付けて優勝します。
彼女の凄いのはこの後。フランスに遠征した仏セントレジャーこそ実力を発揮できなかったものの、続いて転戦したアメリカでGⅡのロング・アイランド・ハンデキャップ(アケダクト競馬場の重馬場11ハロン、2着に3馬身差)を快勝してしまいます。
実はこの勝利こそ、ドイツで調教されている馬がアメリカで勝った最初の記録となったのでした。即ち、ドイツ競馬界にとってもアメリカ競馬界にとっても、ムーンレディは永遠に歴史に残る名馬なのですね。
繁殖に上がったムーンレディはドイツで少なくとも3頭の仔を残し、2006年に日本に輸入されて社台牧場で供用されています。エイシンフラッシュは日本での最初の産駒ですから、恐らくムーンレディの4番仔に当たると思われます。
ムーンレディがドイツに残してきた3頭はいずれも牝馬で競走成績等は不明ですが、彼女たちがドイツでの後継馬を育てていくでしょう。
エイシンフラッシュの2代母はミッドナイト・フィーヴァー Midnight Fever (1991年生まれ、父シュア・ブレイド Sure Blade)。彼女は未出走ですが、産駒は少なくとも7頭あり、そのうち少なくとも4頭が勝馬となっています。ムーンレディはその3番仔にして代表産駒。
ミッドナイト・フィーヴァーの娘ミッドナイト・エンジェル Midnight Angel (1999年生まれ、父アカテナンゴ Acatenango ですから、ムーンレディの半妹)は1勝馬ながらドイツ・オークスで2着、イタリア・オークスでも3着した馬で、現在ではイギリスで繁殖生活を送っています。産駒の活躍はこれから。
またミッドナイト・フィーヴァーの牡馬メイン・ホープ Main Hope (1995年生まれ、父デインヒル Danehill でムーンレディの半兄)はドイツで1マイルの勝馬であり、同じくマイ・タンゴ My Tango (1996年生まれ、父アカテナンゴ。ムーンレディの半兄)はドイツの10ハロン勝馬でもあります。
エイシンフラッシュの3代母マジョリテート Majoritat (1984年生まれ、父ケーニヒストゥール Konigsstuhl)はれっきとしたクラシック・ホースで、9戦6勝2着3回とほぼパーフェクトな競走成績を持ち、1987年のドイツ・1000ギニーとドイツ・オークスの2冠牝馬。
マジョリテートは繁殖牝馬としても優秀で、1992年生まれのマスタープレイヤー Masterplayer はドイツ・ダービー3着、2001年生まれのマリナス Malinas はドイツ・ダービー2着という具合。
更に娘のマジョラータ Majorata は、2007年のドイツ・オークス馬ミスティック・リップス Mystic Lips を産んでいるのですね。
この位で十分でしょう。ザッと見たとおりエイシンフラッシュの牝系は、ドイツ競馬界でクラシック、特に距離の長いオークス、ダービー、セントレジャーに活躍した馬を出し続けているファミリーであり、母ムーンレディはその頂点に立った存在と言っても過言ではありません。
ファミリー・ナンバーは、8-a 。ドイツの「М」ファミリーと呼ばれている牝系です。
最後にエイシンフラッシュの父についても簡単に触れておきましょう。
父キングズ・ベストは、日本でも知られているように2000ギニーに勝ち、その代表産駒であるプロクラメーション Proclamation (サセックス・ステークス)やクリーチャドール Creachadoir (ロッキンジ・ステークス)もマイラーなのは事実です。
しかし一方では配合牝馬によっては長い距離をこなす馬を出している実績もあり、今年のダービーでも伏兵視されているワークフォース Workforce などはその一例。
東京優駿を制したエイシンフラッシュは、スタミナ牝系にキングズ・ベストを配合して長距離クラシック馬を生んだ好例として記録されるでしょう。
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