2014ダービー(東京優駿)馬のプロフィール

先週に続いて日本のクラシック・レースから、ダービーを制したワンアンドオンリーの血統を見ていきましょう。ワンアンドオンリーは父ハーツクライ、母ヴァーチュ、母の父タイキシャトルという血統。3頭とも日本で走った馬です。
先ず父のハーツクライから。

ヌーヴォレコルトを取り上げた時に今年のオークスがハーツクライの最初のクラシック制覇と紹介しましたが、直ぐにワンアンドオンリーが続きました。ハーツクライにとっては4年目の産駒。初年度産駒ウインバリアシオンはダービーと菊花賞で2着、2年目の産駒ジャスタウェイは古馬になって本格化しましたが、漸く4年目になってクラシックを連続制覇したことになります。
同じ年にオークスとダービーを制した種馬は史上7頭目、9度目の快挙となります。クイズになりそうな話題ですが、種明かしをしておきましょうか。
最初はオークスが未だ秋開催だった1943年に、トゥルヌソル Tournesol 産駒のクリフジがダービー/オークス・ダブルを達成した事例。続いては1965年にソロナウェイ Solonaway がキーストンとベロナで達成、別の馬でダブル達成の最初の事例となりました。

時代は下り、1993年からは何と3年連続でダブルが生まれます。93年はトニー・ビン Tony Bin (ウイニングチケットとベガ)、94年ブライアンズ・タイム Brians’s Time (ナリタブライアンとチョウカイキャロル)、そして95年のサンデー・サイレンス Sunday Silence (タヤスツヨシとダンスパートナー)。
この内、トニー・ビンとサンデー・サイレンスは二度目のダブルを完成させました。2001年のトニー・ビンは、ジャングルポケットとレディパステルで、2003年にはサンデー・サイレンスがネオユニヴァースとスティルインラブとで。
サンデーの快挙から9年、一昨年2012年には、サンデーの仔ディープインパクトがディープブリランテとジェンティルドンナで達成したことは記憶に新しい所でしょう。そして今年、ハーツクライが偉大な6頭に加わることになったのです。

父に付いてはこの位にして牝系に入りますが、各論に行く前に、この牝系が所謂アメリカン・ファミリーであることに触れておきましょう。
そもそもファミリー・ナンバーはオーストラリア人のブルース・ロウ Bruce Lowe という人が定めたもので、ジェネラル・スタッド・ブック(GSB)に遡ることが出来る牝系を一定の規則によって纏めたもの。戦前にはジャージー・アクトという法律が制定され、GSBに遡ることが出来ない馬はサラブレッドとは見做されず、英国のクラシックからは排除されるという時代もありました。
しかし1949年にジャージー・アクトは廃止され、近年の流れは牝系によって差別するということはなくなったようです。戦前でもGSBから外れる馬でも能力の高い「サラブレット」は存在し、有名なポーランド人のカジミエルツ・ボビンスキーが纏めた「ファミリー・テーブル」では、ロウのファミリー・ナンバーに含められない「馬」をいくつかのファミリーに纏めています。アメリカン・ファミリーはその一つで、Aを頭に付けて番号が与えられました。
他にB(ブリティッシュ・ハーフブレット)、C(豪州で育まれたコロニアル・ファミリー)、Ar(アルゼンチン・ファミリー)、P(ポーランド・ファミリー、ボビンスキーが拘わったためでしょう)があります。日本にも「ミラ系」というGSBに遡れない牝系があり、日本としてはJというファミリーを提唱していも良いのではないかと考えます。

今年のダービー馬ワンアンドオンリーはAのアメリカン・ファミリーで、Aファミリーの馬が日本ダービーに勝ったのは今回が最初のことです。他のクラシックに目を転ずると、菊花賞のマルタケ、桜花賞のタカエノカオリ、皐月賞のヤマノオーとノーリーズンがアメリカン・ファミリー。
ダービーだけに絞ると、GSBに遡れない馬では第1回のワカタカ、第7回スゲヌマ、第13回カイソウ、第38回ヒカルイマイの4頭が敢えて言うJファミリー(ワカタカとヒカルイマイはミラ系)に属し、第25回のダイゴホマレはコロニアル・ファミリー、第76回のロジユニヴァースがブリティッシュ・ハーフブレッドに属する馬でした。

母ヴァーチュ(2002年 鹿毛)は、ノースヒルズが生産した馬で北出厩舎に所属、2歳から7歳の春まで27戦して3勝。勝鞍は2歳時の未勝利戦(札幌の1200メートル)、3歳時に一般戦(中京1200メートル)、5歳時の一般戦(京都1600メートル)で、重賞の経験はありません。
7歳の2月に小倉の紫川特別(1200メートル)で14着になったのを最後に現役を引退して繁殖入り。初産駒のサンセットスカイ(2010年、栗毛、牡 父ネオユニヴァース)は現役で、これを書いている現在で17戦1勝、阪神の未勝利戦(1400メートル)に勝っています。
そしてダービー馬ワンアンドオンリーがヴァーチュの2番仔で、2頭目の勝馬となります。

2代母サンタムール(1996年 鹿毛 父ダンジヒ Danzig)は池江泰厩舎、中央競馬と地方競馬で22戦2勝。勝鞍は何れも中央競馬で、函館の未勝利戦(ダート1000メートル)と京都の一般戦(1200メートル)で挙げたもの。
繁殖入りして最初の産駒がヴァーチュで、以下地方競馬で2勝したハイブレッド(2003年 鹿毛 せん 父ブライアンズ・タイム)、中央競馬で1勝のプラティコドン(2005年 鹿毛 牝 父ダンスインザダーク)が勝馬になっています。

3代母はアンブロジン Ambrosine (1988年 鹿毛 父ミスター・プロスペクター Mr. Prospector)。アメリカで4戦1勝した馬で、アメリカで2頭の産駒を出したあと日本に輸入。白菊賞(京都1600メートル)など勝のロスマリヌス(1997年 栗毛 牝 父サンデー・サイレンス)を皮切りに、皐月賞馬ノーリーズン(1999年 鹿毛 牡 父ブライアンズ・タイム)、シンザン記念とダービー卿CTに勝ったグレイトジャーニー(2001年 黒鹿毛 牡 父サンデー・サイレンス)を出して成功しました。
この他アンブロジンの血を引く馬としては、アメリカで産んだ初仔レイク・アネシー Lake Annecy も後に我が国に輸入され、瀬戸特別(中京1800メートル)に勝ったジェントルフォークを出しましたし、その娘ポンマヌールも鳴門ステークス(阪神ダート、1400メートル)に勝ったドレッドノートの母になりました。

4代母バラダ Barada (1982年 鹿毛 父ダマスカス Damascus)の兄弟姉妹には名馬が目白押し。概略を列記すれば、
1978年生まれのプリンセス・ウーラ Princess Oola の仔アザーム Azzaam は、豪州のシドニー・カップ勝馬。
1979年生まれのフォーリン・クリアー Foreign Courier の仔グリーン・デザート Green Desert はジュライ・カップ、スプリント・カップに勝った名スプリンターで、種牡馬としても大成功した馬。
1980年生まれのインべりっシュト Embellished の仔シアトル・ドーン Seattle Dawn は、アメリカのデラウエア・ハンデ勝馬。
1981年生まれのアルセア Althea は自身2歳時にデル・マー・デビュタント、デル・マー・フューチュリティー、ハリウッド・ジュヴェナイル・チャンピオンシップ、ハリウッド・スターレット、3歳になってもアーカンソー・ダービー、サンタ・スザーナ・ステークスに勝った名馬で、その孫にもフリゼット・ステークス勝馬バレット Balletto 、スピンスター・ステークス勝馬アコマ Acoma が出ている名牝。
1982年生まれがノーリーズンの3代母、ワンアンドオンリーの4代母で、
1987年生まれのアイシャー Aishah はガーデン・シティー・ステークス勝馬という具合。
特に1978年から5年連続で産んだ娘たちが、何れもGⅠ級の勝馬を産んできたことは驚異とも言えましょう。最早GSBに遡れない血統とは呼ばせない活躍です。

以上、ファミリー・ナンバーはA-4。ファニー・マリア Fanny Maria を基礎とする牝系と言われてきましたが、最近の研究ではGSBの21号属に遡ることが出来るという説もあります。

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください