強者弱者(130)

薊の花、露草

 野にありては夏草のしげみに、交る薊の花あざやかなり。薊に二種あり。鬼薊といふは花も葉も大きく刺あり。鞭にて打てば茎より乳を生ず。更にナップ・ウィードと称するもの春の暮に咲く。花も葉も鬼薊に比して小さく刺なし。又茎に乳を含まず。好んで乾燥地に生ず。和名は知らず。色紅にして淡なり。
 薊に次いではほたる草花咲く。ほたる草また露草、つき草ともいふ。藍色の花、朝露にほころびて優しとも優し。野路の朝まだき、草刈る少女露のまゝなる夏草を背負ひ行くに、籠の目より、薊と露草の美しく色をそへたる、絵そらごとゝやいはん。

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薊(あざみ)に二種あり、とありますが、これが良く判りません。当時慣用的に使用されていた植物名と現在のそれとが必ずしも一致するとは限らないからです。

最初の鬼薊(オニアザミ)、現在呼ばれているものは主に深山に生えるもの。「花も葉も大きく刺あり」という特徴はその通りですが、このエッセイ自体が東京市及びその近郊を描いているので、果して当時の東京で普通に鬼薊が見られたのかどうか。

次に挙げられているナップ・ウィードは更に謎。スペルは Knap Weed と思われますが、英語の辞書ではヤグルマギクの由。キク科ヤグルマギク属 Centaurea の総称とあります。
ところがヤグルマギクは、現在では園芸植物の一つで、薊とはかなり趣が異なります。Centaurea 属であることは間違いありませんが、逆に英名ではコーンフラワー Cornflower と紹介されているのですね。

では薊の一種であるナップ・ウィードとは何か。
あとは想像の範囲ですが、「春の暮に咲く。花も葉も鬼薊に比して小さく刺なし」という表現に当て嵌まるものは、恐らくノアザミという種類でしょう。春から初夏にかれて咲くのはこれだけ。
ノアザミに似て、より荒々しい感じのものにノハラアザミという種類がありますから、秀湖の言う鬼薊がこれかも知れません。

露草は問題無いでしょう。これは現在でもツユクサが正式和名。「つき草」(着き草)というのはツユクサの古名ですし、「ほたる草」は方言の一つ。蛍が飛ぶ頃から咲き出すことによる命名ですね。

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