3年振り、オブライエンの1-2-3

昨日の日曜日、私の日記は南アではなく、アイルランドからの報告です。

アイルランド・ダービー(GⅠ、3歳、1マイル4ハロン)に最終登録したのは11頭でしたが、ゴドルフィンのシャバール Chabal (キーレン・ファロン騎乗予定)が出走を取り消しました。理由は馬場が硬過ぎるから。日本では馬場状態を理由に出走を取り消すことは考えられませんが(制度上できないのかも知れません)、ましてや馬場が良過ぎるというのはあり得ないことかも知れませんね。
しかし固い馬場でのレースは馬にとっては負担にもなり、故障の遠因ともなります。現に今年の東京競馬場でもレコード勝ちした馬が故障、ダービーに出られないという事態が起きました。

ゲートインした10頭の中で最終的に3対1の1番人気に支持されたのは、英国ゴスデン厩舎がデットーリ騎乗で乗り込んだモンテロッソ Monterosso でした。前走ロイヤル・アスコットのキング・エドワード7世ステークスを楽勝、追加登録料を支払っての出走に陣営の意気込みが感じ取れます。

対するは地元勢。中でも5頭出しで臨むエイダン・オブライエン陣営は目下愛ダービー4連勝中で、5連覇という新記録がかかっています。ペースメーカーのブライト・ホライゾン Bright Horizon は別にしても、他の4頭はどれもチャンスがあり、主戦騎手のジョニー・ムルタは難しい選択を迫られていました。

そんな中でムルタが選んだのが、ケープ・ブランコ Cape Blanco 。ヨーク競馬場のダンテ・ステークスで後の英ダービー馬ワークフォース Workforce を破りながら、遠征した仏ダービーでは不可解な惨敗を喫していた馬です。
これを反映してか、ケープ・ブランコが7対2の2番人気。以下英ダービー本命で4着に終わったヤン・フェルメール Jan Vermeer が3番人気(4対1)、英ダービー5着のミダス・タッチ Midas Touch の4番人気(9対2)と続きます。

レースは予定通りブライト・ホライゾンが強いペースで先行、3番手で進んだミダス・タッチが替って直線入り口で先頭に立つ展開。
ミダス・タッチが引き離して逃げ込みを図りますが、4番手に控えていたケープ・ブランコが徐々に差を詰め、結局はミダス・タッチに半馬身差を付けて優勝です。

後方を進んだヤン・フェルメールも内ラチ沿いに伸びましたが、更に1馬身半差3着まで。本命のモンテロッソも外から追い上げましたが、上位3頭のスピードには付いていけず、1馬身遅れて4着に終わりました。
5着にもオブライエンの1頭、英ダービー2着のアット・ファースト・サイト At First Sight が入っています。

終わってみればオブライエン厩舎のワン・ツー・スリー。師の愛ダービー5連覇に華を添え、オブライエンとしては8勝目の愛ダービー制覇となります。
最近の5連覇とは、
2006年 ディラン・トーマス Dylan Thomas
2007年 ソルジャー・オブ・フォーチュン Soldier Of Fortune
2008年 フローズン・ファイア Frozen Fire
2009年 フェイム・アンド・グローリー Fame And Glory

更に1997年のデザート・キング Desert King 、2001年のガリレオ Galileo 、2002年のハイ・シャパラル High Chaparral がオブライエンの八重奏を完成させます。

また2007年のソルジャー・オブ・フォーチュンのときも2着アレキサンダー・オブ・ハレス Alexander Of Hales 、3着イーグル・マウンテン Eagle Mountain (この馬が1番人気だった)でワン・ツー・スリーを達成しており、今年は2度目の快挙となります。

不思議なことに2007年の4着は、今年と同様マーク・ジョンストン厩舎の馬(ボスコベル Boscobel)。これもまた空前絶後の記録でしょう。

因みに2007年の5着はケヴィン・プレンダーガスト厩舎の馬だったのに対し、今年はこれもオブライエン軍団。前回を上回る独占と申せましょうか。

騎乗したジョニー・ムルタにとっては、これが愛ダービー4勝目。去年のフェイム・アンド・グローリーの他には、2000年のシンダー Sinndar 、2003年のアラムシャー Alamshar があります。(ムルタがオブライエンの主戦になったのは去年から)

実はムルタ騎手、この日の第1レースの2歳戦で本命馬(やはりオブライエンのペトロニウス・マクシマス Petronius Maximus)で落馬していたのです。馬が若く、先頭に立ったもののラチに激突する事故。幸い軽傷でダービーでの騎乗に支障は来しませんでしたが、鼻に大きな絆創膏を貼っての奮闘が目を惹きましたね。

ケープ・ブランコがダンテで破ったワークフォースが英ダービーを制し、そのケープ・ブランコをロぺ・デ・ヴェーガーが仏ダービーで破ったのだから、ロぺ・デ・ヴェーガが最強、というのはあくまでも理屈。3頭のダービー馬でどれが最強かは、夏以降の大いなる楽しみに取っておきましょう。

ケープ・ブランコのフランスでの惨敗は原因不明。海外遠征、当日の気温の高さなどが考えられますが、明らかにパドックでは普段のケープ・ブランコとは違っていたそうです。この凡走を除外すれば、ケープ・ブランコは負け知らずという記録になるのですね。

オブライエン師のコメントでは、ケープ・ブランコの次走はキングジョージの由。ワークフォースは早々とキングジョージ出走を決めていますから、このGⅠ戦で英愛ダービー馬対決が見られる可能性が高くなってきました。

さて日曜日にカラー競馬場で行われた残り二鞍のパターン・レースに行きましょう。

一昨年からパターン・レースに格上げされたスプリンターによるサファイア・ステークス(GⅢ、3歳上、5ハロン)。
12頭が出走しましたが、伝統的にスプリンター部門は英国勢が強く、ここでもそれが実証されました。

優勝は16対1のグラマラス・スピリット Glamorous Spirit 、半馬身差2着がリヴァレンス Reverence 、1馬身半差3着にエルナウィン Elnawin の順。9対2の1番人気に支持されたスピン・サイクル Spin Cycle は5着でしたが、4着ピカデリー・フィリー Piccadilly Filly を含め、1着から5着までをイギリス調教馬が独占しています。

勝ったグラマラス・スピリットはウェールズのロン・ハリス師の管理馬、キーレン・ファロンが騎乗。ハリス師にとっては、これがパターン・レース初勝利であり、アイルランドで出走させたのも初めてのことでした。

もし4ハロン半のレースがあれば絶対に負けない自信がある、という師自慢の快速馬です。

2歳馬によるレールウェイ・ステークス(GⅡ、2歳、6ハロン)は、オブライエン厩舎がほぼ独占してきたレース。2度に亘る5連覇(1999年から2003年までと、2005年から2009年まで)に1997年の勝利を加えて11勝という驚異的な記録を残しているのです。

今年は1頭取り消しで7頭立て。例年の如くオブライエン厩舎のサミュエル・モース Samuel Morse が5対2の1番人気に支持されましたが、優勝は7対2のフォーモシーナ Formosina でした。

ゴール板で3頭が並ぶ大接戦で、勝馬は3頭並んだ外の馬。短頭差2着に真ん中を走った本命のサミュエル・モース惜敗、最内のクロンディナリー Clondinnery が首差3着という結果です。
オブライエン厩舎12勝目ならず、6連覇もならず。

勝ったフォーモシーナは、イギリスのジェレミー・ノセダ厩舎所属、鞍上はライアン・ムーアでした。
デビュー戦では、後にロイヤル・アスコットでコヴェントリー・ステークスに勝つストロング・スート Strong Suit の3着でしたが、そのあと良化、前走ドンカスターでの未勝利戦に続く2連勝です。

今日も追い込み勝ちしたように、距離が延びて真価を発揮するタイプのようですね。

ところで日曜日にはフランスでもGⅠ戦が行われています。サン=クルー競馬場のサン=クルー大賞典(GⅠ、4歳上、2400メートル)。1986年までは2500メートルで行われていましたが、その後2400メートルで定着している一戦。

今年は8頭立て。ゴールでは3頭が一線に並ぶ大激戦で、写真判定の結果、優勝はプルーマニア Plumania 、ハナ差2着にユームゼイン Youmzain 、短首差3着が1番人気(イーヴン)のダルヤカナ Daryakana の順。
勝ったプルーマニアは61対10の3番人気でした。(ユームゼインは2番人で、人気上位3頭の争いとなりましたから、順当な結果と言えましょう)

このレースは審議となり、勝馬と逃げたプーヴォアール・アブソリュー Pouvoir Absolu が対象。しかし着順通りに確定し、英国から挑戦したユームゼインにとって7度目のGⅠ2着が確定しました。

プルーマニアはアンドレ・ファーブル厩舎、オリヴィエ・ペリエの騎乗。ファーブル師にとってこのレース6勝目、ペリエ騎手には3勝目という記録。オーナーのウェルザイマー家にとっては、1979年(ゲイ・メセン Gay Mecene)以来ほぼ30年振りの優勝となりました。

プルーマニア陣営は、同馬をこのあと教養させ、秋は古馬にも開放されているヴェルメイユ賞を目指す由。

本命ダルヤカナにとっても、不運続きのユームゼインにとっても惜しいレースとなりましたが、両馬にとってもこの結果は不名誉とはならないでしょう。
特にゴール板直前でも直後でも先頭だったユームゼインは惜しいの一言。毎年のローテーションであるキングジョージから凱旋門へと、8度目の正直を目指します。

ダルヤカナは、これが今期2戦目。徐々に調子が戻ってきており、次はアスコットのキングジョージに挑戦する意欲も捨てていない様子でした。

この日サン=クルーでは、マユレ賞(GⅡ、3歳牝、2400メートル)も行われました。
6頭立て。勝ったのは108対10のネヴァー・フォーゲット Never Forget 、4分の3馬身2着が本命(イーヴン)のシャマノヴァ Shamanova 、短首差3着にレディーズ・パース Lady’s Purse という結果です。

パターン・レース初勝利となるネヴァー・フォーゲットは、エリー・ルルーシュ厩舎、アントニー・クラスタスの騎乗。調教師にとっても騎手にとってもマユレ賞初勝利となりました。

先行したレディーズ・パースのペースが遅く、追い込みにかけた本命シャマノヴァにとっては力を余してのレースになってしまったようです。
勝った馬も負けた馬も、秋のヴェルメイユ賞が正念場。その時こそ強いペースで本領が発揮されることが期待されましょう。

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