強者弱者(94)

八重桜

 此月の二十日過ぎて江戸川の八重桜、及荒川堤の花開く。桜の名残なり。江戸川の桜は隅田のながめに勝ること萬々なり。花の両岸よりさし出でて水にうつる風情殊によし。
 荒川の花見は人気険悪にして不愉快なることども多し。乱酔者の口に任せて若き婦人を凌辱すること他にかばかり甚だしきを見ず。小金井は都と遠くかけ距てて、其筋の取締も緩なれど、花見る人の風流荒川の粗野なるに似ず。荒川にては素養ある紳士も往々群集に和して下司の挙動に及ぶこと浅猿しとも浅猿し。唯二人若き婦人と携へて荒川に遊ぶことゆめある可からず。

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これは特に追加することもありませんが、

「萬々」は「ばんばん」と読んで、非常に多いことを言います。

「かばかり」は、「これほど」ということ。

「下司」は「げす」。もちろん、心がいやしいことですね。

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