強者弱者(108)
鰹
鰹は東南の海に産す。味ひ、濃厚にして、色生々し。刺肉として食ふに血の唇頭に滴るを覚ゆ。衣をまげて初鰹を買ふといへる旧江戸市民の趣味流石に東夷の本性を語り尽して遺憾なし。近来之を賞美するもの漸くにして稀れなり。此魚に一種の毒あり、食ふもの、往々にして中毒す。
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「刺肉」は、「さしみ」とルビが振られています。
カツオを刺身で食するのは関東だけの風習なのでしょうか。現在では普通に食しているようですが、存外珍しいことなのかも知れませんね。土佐では「たたき」と称して、外側を少し炙って食すのが習わし。
京都では専ら鰹節なんでしょうか。やはりナマで食べるのは野蛮と言うことか。
「衣をまげて」の「まげる」とは、質に入れること。江戸っ子は、自分の嫁さんを質に入れてでも初ガツオを食うというのは落語のネタでしたっけ。
「東夷」(とうい)とは、東国の武士を京都人が呼んだ言葉。私なども立派な東夷です。
名古屋出身の家内にこの話をしたら、“何バカなこと言ってんの。カツオは刺身で食べるのが一番よ” って言っていましたから、なんか違うのかな。
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