日本フィル・第594回東京定期演奏会

日本フィルの10月定期、実は金・土と二日間通いました。本来は土曜日会員ですが、金曜日も聴き逃がす手はない、当日券で入ります。
楽器の取り扱いや配置が見たかったので、2階LA6-16というところで見物していました。

一つはマエストロサロンの報告した紹介したリャードフ、その挽歌の第4ホルンに注目していたのです。ところがその前の黙示録も面白かったですね。チューバを2本使いますし、ティンパニも二組。左右に分かれて雷を表現するのです。遠藤氏と福島氏、見ていて飽きなかった。
更に面白いのは、当然ながらアレクサンドル・ネフスキー。特に第5曲、氷上の激戦では次から次へと繰り出される打楽器の面白さだけに留まらず、その奏法を場面によって変え、様々な音色が引き出されていくのでした。
ヴィオラも見もので、スル・ポンティチェロの弾き方。ラザレフの指示は、ややオーバーな位に弓を扱わせ、視覚的にも訴えるものが大きいのです。

ということで、金曜日は音楽を聴く、というより演奏を楽しんできました。「アレクサンドル・ネフスキー」、何て面白い作品なんだろう。
そして今日、自分の席、1階9列24で堪能したのは、

日本フィル・第594回定期演奏会 サントリーホール
リャードフ/交響的絵画「ヨハネの黙示録から」
リャードフ/挽歌
グラズノフ/ヴァイオリン協奏曲
~休憩~
プロコフィエフ/カンタータ「アレクサンドル・ネフスキー」
指揮/アレクサンドル・ラザレフ
独奏/扇谷泰朋
独唱/小山由美
合唱/東京音楽大学
コンサートマスター/木野雅之

リャードフの2曲は、続けて演奏されました。共に晩年の作で、どちらも静かに消え入るような作品であるため、間に拍手が入らない方が効果的。ラザレフはそのあたりをよく計算してます。最初の曲が終わっても両手を翳したままなので、曲を知らない人はどこで終わったのか分からないんです。知っている人なんてほとんどいませんからね。

挽歌も同じ。ヴァイオリンのフレーズが止んでも、ラザレフは指先を小刻みに震わせて、フライング拍手をさせません。相変わらず見事な聴衆コントロールに思わず吹き出しそう。
リャードフの作品を聴く機会はあまりないのですが、日本フィルは比較的多く演奏してます。どれも短いのですが、独特の魅力がありますね。単にオープニング・ピースで片付けてしまうのは勿体無い。

ここで編成はグッと落ち、グラズノフの美しい協奏曲が日本フィル・コンマスの扇谷氏のソロで演奏されます。彼、風貌に似合わず繊細なヴァイオリンを奏でます。(何か失礼なこと書いちゃったかな)
それがまたグラズノフの繊細でメランコリックな音楽にピッタリ。オケも我らがコンマスの伴奏ということもあり、いつも以上に和やかな雰囲気が漂います。
カデンツァ、良かったですね。指揮のラザレフも、ピチカートでは思わず首を振りながら、ソロと顔を見合わせます。
ここは日本フィルの両コンマスがガッチリと握手。

後半のプロコフィエフ。これは素晴らしい演奏でした。金曜日は作品の面白さを満喫しましたが、土曜日はそれを突き抜けて、作品に感動しましたね。何と素晴らしいカンタータ。
私は初めての体験じゃありません。ですが、これほどまでに感動を覚えたのは初めてです。やはりラザレフの表現力に尽きるでしょう。

例えば第3曲を注意して聴いて欲しい。ここはロシアの敵、ドイツ騎士団の音楽です。歌われる合唱はラテン語。ロシア人には耳慣れない言葉が、えも言われぬ恐怖感を醸し出します。
ラザレフは、この「プスコーフに駐留する十字軍」で、これを挟む第2・4曲とは音色をガラッと変えて暗く、鋭く、恐ろしげにオーケストラを響かせます。
もちろんプロコフィエフがそのように書いているのですが、ラザレフは独特の指揮スタイルでここを強調、それによってオーケストラも聴衆も説得されてしまうのでした。
これこそ指揮者の表現力と呼ぶべきでしょう。

第5曲のスリル。手に汗を握る戦いの音楽は、日本フィルの底力を最後の一滴まで振り絞り、聴き手を唖然とさせます。
戦況が好転、突然のように明るさが差し込む後半。安堵の色が目に見えるほど。
第6曲のラメント。ややビブラートを多めにかけた小山由美のメゾ・ソプラノが胸を打ちます。
最後の合唱。日本フィル自慢の鐘が高らかに打ち鳴らされ、東京音楽大学の見事に訓練された若きコーラスがロシアを、その大地を称えて、ホールを感動で埋め尽くします。
例によってラザレフは、どうだこの演奏、素晴らしいソロ、合唱、そしてオーケストラ、と言わんばかりに客席を向いてフィニッシュ。

カーテンコールでは何度もガッツポーズを繰り出し、みなみな泣き笑いのうちに素晴らしいコンサートを終えたのでした。
ラザレフが首席指揮者として挑むプロコフィエフ連続演奏会、その大成功を願わずにはいられません。一人でも多く、この至福の時を体験されるように・・・、と。

 

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