日本フィル・第260回横浜定期演奏会

土曜日は読売日響の定期もあったのですが、躊躇うことなくこちらに回りました。ラザレフのプログラムは出来るだけ聴きたいし、その選択は正解だったようです。

チャイコフスキー/歌劇「エフゲニー・オネーギン」~ポロネーズ
チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番
     ~休憩~
チャイコフスキー/交響曲第5番
 指揮/アレクサンドル・ラザレフ
 ピアノ/アリス=紗良・オット
 コンサートマスター/扇谷泰朋
 ソロ・チェロ/菊地知也

日フィルの先シーズンの会場アンケートで「最も印象に残った指揮者」の断然第1位に選ばれたアレクサンドル・ラザレフ、そのオール・チャイコフスキー・プログラムとあって、みなとみらいホールは完売に近い入りでした。1階15列の右端でしたが、私共の周りもギッシリ、久し振りに縮こまっての音楽鑑賞です。

名曲中の名曲を並べたコンサートですが、やはり圧巻はメインの第5交響曲でした。この聴き古された作品、名演と讃えるものも少なからず聴いているメリーウイロウですが、これはまた中でも飛びぬけて個性的な第5でしたね。

ラザレフのチャイコフスキー/第5は以前に読響でも聴きましたが、今回は客演指揮者と首席指揮者の違いというか、マエストロの解釈は徹底してオケに浸透し、演奏の意図はほぼ完璧に表現し尽くされた感があります。

とにかく何処をとっても「他とは違う第5」なのです。

第1楽章から引用すれば、主部に入る時の弦楽器の刻み。改めてスコアを見るまでもなく、ここは ppp とピアノ三つですよね。ラザレフの徹底した弱音奏法は、これぞピアニッシシモじゃ。

第1主題が一頻り高まった後の経過句。第116小節で登場する弦のスフォルツァートピアノ sfp の強烈なこと。これだけ sf と p を強調されると、この何でもないパッセージに思わずハッとします。

いよいよ第2主題登場。ここでラザレフは、それまで二つに振っていた両腕を一気に六つにギアダウンします。モルト・ピウ・トランクィロとスコアには指定がありますが、この突然のスローテンポは決して不自然でなく、そうでなければならぬ、と聴き手に納得させてしまうのは流石。188小節のストリンジェンドでテンポを元に戻すのは当然のこと。

コーダの盛り上げもスリリング。練習記号 Y から、ラザレフ得意の空手チョップ連発で3段ギア、4段ギアと音量を上げ、練習記号 Z で頂点に達する剛腕には唖然とさせられます。

最後は一切リタルダンドすることなく ppp に収束し、アタッカで第2楽章に。

この第2楽章こそ、この演奏の白眉でょう。全ての小節が、いま作曲されたばかりのような新鮮さに溢れ、初めてこの交響曲を聴くような驚きに満ちていました。これほど様々な音が聴こえてくる第5は珍しいのではないか。

例のホルン・ソロ。この日は客演首席の丸山勉が吹きましたが、その音色は昔懐かしいフレンチ・ホルンを思い出させるもの。今は無いパリ音楽院のオケと聴き紛うほどの豊かなヴィブラートを伴うメロウな音色に酔わせてもらいました。
丸山/福川の二枚看板を持つ日本フィルのホルンは、日本のオケでも屈指のものでしょう。

大満足のマエストロ、カーテンコールでは何度も丸山を立たせていました。(丸山氏、なかなか座らせてもらえません)

予想したとおり、アンコールは同じチャイコフスキーから、「白鳥の湖」の4羽の白鳥の踊り。東京定期ではメイン・プロで取り上げたピースですが、その時とは全く別の、リラックスした演奏。東京で聴いた人は腰を抜かしたかも知れませんな。

コントラバスの下降ピチカートを思い切り強調し(そんなこと楽譜には書いてない!)、マエストロの両腕はあたかも白鳥の羽の如し。これには客席も大笑い。

マエストロ・ラザレフは、同じ作品でも時と場合によってガラッと趣を変えてしまう。どんな名曲でも、ラザレフが指揮するのであれば聴き逃せない。その所以でしょうか。

中間で演奏された協奏曲は、ドイツ人と日本人を両親に持つ話題のピアニスト、アリス=紗良・オット。

この1曲で判断はできませんが、縦線をガチガチに合わせるピアニストではなく、ガンガン弾きまくるタイプでもありません。
むしろ第2楽章をしっとり歌わせるところに特質があるようで、アンコールに弾いたショパンの遺作のノクターンに彼女の高い実力を感じました。

演奏会終了後、オットのサイン会には長い列ができていました。特に日本の聴き手には波長が合うピアニストだろうと思いましたね。ドイツ・グラモフォンと専属契約を結んでいるのにも納得です。

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