今日の1枚(116)

今回からは、手元にある中では最も新しくリリースされたアルバムを聴くことにします。2009年にCD化されたバイエルン放送交響楽団 Symphonienorchester des Bayerrischen Rundfunks の創立60周年を記念した6枚組(実質は7枚)のセットもので、同オーケストラの首席指揮者を務めた(一人を除いて)6人の指揮者による演奏会のライヴ録音を集めた内容になっています。

バイエルン放響は1949年創立。最初の1枚は、1960年まで初代首席指揮者を務めたオイゲン・ヨッフム Eugen Jochum が指揮したフルトヴェングラーの交響曲第2番。長い作品なので、第1楽章から第3楽章が1枚目、第4楽章が2枚目に収録された2枚モノ(2CD)。
BR Klassik というレーベルはバイエルン放送交響楽団独自のレーベルのようで、当盤の品番は 900702 。1枚づつの単発仕様で、セットとしての解説書はありません。

ブックレットに記載されている録音データは、1954年12月9・10日にミュンヘンのヘラクレスザール Herkulessaal, Munchen で行われた演奏会のライヴ収録。当セットで唯一のモノラル録音です。
プロデューサーは von Boeckmann 、エンジニアは Otto Petzak で、もちろんバイエルン放送局のスタッフでしょう。

モノラルながら如何にも放送録音を感じさせる自然な収録で、ホールの間接音が豊富に取り込まれています。しかし録音年代がいかにも古く、細部の明瞭さやダイナミック・レンジには限界があるのは止むを得ません。
フルトヴェングラー自身がベルリン・フィルとスタジオ録音したものと比べると、聴き易さの点ではかなり改善している感じ。作曲者の自作自演盤と比較するのも面白いでしょう。

その比較ですが、興味深いのが第4楽章。明らかにフルトヴェングラーDG盤とは異なる楽譜が使われています。
先ず、手元のスコア(ブルックナーフェルラーク版)の練習番号34の4小節目から練習番号37の6小節までカットがあります。ポケット・スコアにして7ページ分。
更に困惑させられるのが第2主題の再現部意向で、練習番号51から最後までは全く別の譜面で演奏しているとしか言いようのない変更が加えられているのです。一言で言えば、大幅に短縮した印象。

(フルトヴェングラー盤については既に取り上げました。今日の1枚(104)、2009年4月22日の日記を参照して下さい。)

これは単にヨッフムが作品の長さを考えて大胆に鋏を入れたのではなく、フルトヴェングラー自身が、最晩年にDG盤を録音した後に改訂を試みたのではないか想像されるほどの変更なのです。

両盤の演奏時間を比較すると、第1楽章はフルトヴェングラーが25分なのに対してヨッフムは26分。第2・第3楽章はほとんど同じで、両盤とも夫々13分と16分。ところが第4楽章では、フルトヴェングラーが29分かかるの比べてヨッフムは27分。たった2分とはいえ、明らかに使用している譜面が違うことが原因です。

当盤のブックレット解説(Renate Ulm)には改訂については一言も触れられていませんし、私の乏しい知識でも改訂がなされたということは聞いていません。今回この盤を聴いてみて初めて生じた疑問です。

現在フルトヴェングラーの作品はリース・アンド・エアラー社から新しい校訂版が出ており、これを見ればその辺の経緯が判るかも知れません。(この版の校訂者/編曲者として、ゲオルグ・アレクサンダー・アルブレヒトの名がクレジットされています)
しかし新版は3万円以上する高価なものですから、とても年金生活者が買えるような代物ではありませんね。謎は謎として、その儘にしておきましょう。

なお、このブックレットにはフルトヴェングラー、ヨッフム、バイエルン放送交響楽団、ミュンヘン・フィルとの微妙な関係が明らかにされています。へぇ~、そうだったのか、という話題。詳しく書く訳には行きませんので、知りたい方は自分で当盤を買って読んで下さいな。

フルトヴェングラーが亡くなったのは1954年11月30日。演奏会の日付からして「追悼コンサート」だったのかと思いましたが、それは違います。その事情もブックレットに。

またバイエルン放送響の演奏会記録を見ると、この二日間のコンサートでは、フルトヴェングラー作品の後でモーツァルトのピアノ協奏曲第20番K466が演奏されています。ソリストはエドウィン・フィッシャー。フィッシャーもまたフルトヴェングラーと縁の深いアーティストでしたね。

その辺を頭に入れて当盤を聴くと、当時の音楽事情が想像できて感慨も一入です。

会場のノイズは最小限に抑えられ、演奏終了後の拍手もカットされています。知らずに聴いているとライヴ録音であることに気が付かないほど。

参照楽譜
ブルックナーフェルラーク(ヴィースバーデン)

この版の出版は1952年。扉にはフルトヴェングラーのDG録音のレコード番号が明記されています。
バイエルン放響のコンサートが1954年だったことも、改訂が行われたことを窺わせる記録ではないでしょうか。

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