今日の1枚(123)
「テレフンケン・レガシー」の2枚目は、リヒャルト・シュトラウスの作品を集めた1枚。品番は 3984-28409-2 ですから、昨日取り上げたベートーヴェンの次の番号。同時にリリースされたCDです。
もちろんウィレム・メンゲルベルク Willem Mengelberg 指揮コンセルトへボウ管弦楽団 Concertgebow Orchestra の演奏がメインですが、他にクレメンス・クラウス Clemens Krauss 指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 Wiener Philharmoniker の「ティル」もカップリングされています。
①R.シュトラウス/交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」
②R.シュトラウス/交響詩「英雄の生涯」
③R.シュトラウス/交響詩「ドン・ファン」
①がクラウス、②と③がメンゲルベルクの演奏。
録音データは①が1941年1月13日、②は1941年4月21日、③が1938年11月8日の録音とクレジットされています。録音場所とエンジニアは不明。
①は初出がテレフンケンのSP、SK 3139/40 という2枚4面でした。マトリックス番号は 025491-025494 。
クラウスはこの曲を3回録音していて、当盤の解説者 Michael Kennedy によれば、これはその最初のものの由。WERMで調べたところ、2回目の録音はスカラ座管弦楽団との演奏で、デッカのSP D.K.1681/2 という品番。3回目の録音はウィーン・フィルとの再録音で、最初からLPで発売され、やはりデッカから LXT 2549 で出ていました。こちらは「ドン・ファン」とのカップリング。
3回目の録音はその後CD化され、何度も発売されています。当盤はそれとは別テイク。
クラウスは日本での人気は全く無いようで、戦前から格下扱いでしたね。当時の日本ではクラシック音楽の情報は限られていたので止むを得ないかも知れませんが、某カリスマ評論家でさえ無視していたのは笑止千万。
解説でケネディーも触れているように、シュトラウスもホフマンシュタールも高く評価し、ウィーン国立歌劇場の芸術監督に強く推薦してきた名指揮者です。
ここでも特にサプライズはありませんが、正統的シュトラウス演奏を聴かせてくれます。
②は、①以上に権威ある録音と言えるでしょう。作品そのものがメンゲルベルクとコンセルトへボウのコンビに献呈されたのですからね。
初出はテレフンケンの SK 3181/5 の5枚10面、マトリックスは 025639-025648 。
メンゲルベルクとしては2度目の録音で、初録音はニューヨーク・フィルとのHMV盤でした。
これは一聴して録音の良さに驚かされます。冒頭の重低音の濡れたような響きは、これがSP録音であることを忘れさせるほど。もちろん大音量を要求される箇所では限界もありますが、全体を通して鑑賞には問題無いレヴェルです。当時の最高水準が聴けるハイファイ録音。
ヴァイオリン・ソロはフェルディナンド・ヘルマン Ferdinand Helman 。このコンマス以下、当時のコンセルトへボウの上手さは現代のレヴェルを遙かに超えています。
何しろメンゲルベルクのシュトラウス演奏は、シュトラウス自身が“おれより上手い” と認めていたほどのもの。「英雄の生涯」は当盤を聴かずして語ることの出来ない定番と言うべきでしょう。
シュトラウスがメンゲルベルクの演奏に対し、“第1ヴァイオリンが私には甘く、弱すぎるように聴こえる。もう少しラフな演奏の方が良いのでは・・・” とアドヴァイスしたという話が紹介されていますが、シュトラウスの指摘の通り、メンゲルベルクはコンセルトへボウから甘く柔らかい弦楽サウンドを引き出しています。これほど全オーケストラが一体になった演奏は現代では望めません。
なお、インデックスは通常より多い9か所に付けられています。
③は、テレフンケン SK 2743/4 の2枚4面が初出。メンゲルベルク唯一のスタジオ録音でしょう。マトリックス番号は 023659-023662 。
②より3年ほど前の録音で、やや低音が物足りなく感じられなくもありませんが、グロッケンシュピールが鮮明に録られているのに感心。この楽器が最初に登場する練習記号Dの4小節前は、恐らく当時のマニアを狂喜させたに違いありません。
残念ながら当盤には重大な欠点があり、最後の pp の和音が欠落しています。まさかオリジナルの録音で落ちているとは考えられませんから、CD化に際するミステイクでしょう。
参照楽譜
①ペータース Nr.4192e
②オイレンブルク No.498
③ペータース Nr.4192b
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