今日の1枚(132)

10枚組のメンゲルベルクのラジオ・レコーディング集、残り3枚になりましたが、8枚目は以下のもの。

①グリーグ/「ペール・ギュント」組曲第1番
②ブロッホ/ヴァイオリン協奏曲(Ⅰ937-1938)
③R.シュトラウス/交響詩「死と変容」

各曲の録音日付は、

①1943年4月15日
②1939年11月9日
③1942年4月(テレフンケン録音)

①と②は当セットの趣旨であるライヴ録音ですが、③のみはメンゲルベルクがテレフンケンに残した正規のSP録音が転用されています。シュトラウスはメンゲルベルク得意のレパートリーですが、このセットに含めるべき適当なライヴ録音が存在していなかったものと思われます。いずれにしてもSP録音の転用は1枚目のマーラーとこれのみです。

①はメンゲルベルクには珍しい記録。第1組曲の4曲を通して、つまりアタッカで演奏しているようで、曲間のカチ・カチ音は入っていません。

第1曲「朝」では練習記号Bの頭、同Cの頭、同じくDの頭にティンパニのトレモロを加筆しています。

第3曲「アニトラの踊り」の繰り返しは全て実行。独特のテンポ緩急が聴かれるのが如何にもメンゲルベルク。

②のブロッホはスイス生まれのアメリカの作曲家ですが、ユダヤ人でもあります。演奏日付からも判るように、これはナチのオランダ侵攻(1940年5月)以前のコンサートで、これ以後では有り得ないプログラムです。その意味でも貴重なドキュメント。これが同曲のアムステルダム初演でもありました。

ヴァイオリン・ソロは初演者のヨゼフ・シゲティ Joseph Szigeti 。シゲティは、当時この新作を持って世界中を回っていましたし、これに先立ってコロンビアにSP録音もしていました。(共演はシャルル・ミュンシュ指揮パリ音楽院管弦楽団)
アムステルダムの好事家たちは、初めてナマで接する作品を予めレコードで予習出来た極めて稀なケースでもあります。(既に発売済だった由)

残念ながらスコアが手元にありませんので、作品の細部について触れることはできません。(昔、ブージー&ホークスのポケット・スコアがヤマハの店頭に並んでいるのを見たことはありますが、その時に思い切って買わなかったのが悔やまれます。現在では売譜は絶版のようですね)

ダニエルズの「Orchestral Music」によれば、オーケストラ編成はフルート3(3番奏者ピッコロ持替)、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、バス・クラリネット、ファゴット2、コントラ・ファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、打楽器2人、ハープ、チェレスタ、弦5部。打楽器はシンバル、タムタム、大太鼓、小太鼓、サスペンデッド・シンバル。
全体は3楽章で37分ほど。如何にもユダヤ風のメロディーが散りばめられた作品です。

当時の批評は、シゲティを絶賛したものの、メンゲルベルクについては“作品に本当に共感しているかは疑問” という厳しい意見もあったようです。

なお、ブックレット(解説はFrits Zwart)には当日のプログラムが紹介されていて、冒頭がグルックの「アルチェステ」序曲、2曲目が当録音のブロッホ、休憩を挟んでマーラーの第4交響曲というもの。このマーラーが、セット10枚目に収められている演奏です。

③は最初に書いたようにテレフンケン録音。ジャケットには1942年4月とのみクレジットされていますが、解説には4月14日と日付まで明記されています。
WERMによると、SK 3738/40 の3枚組6面が初出。発売は戦後だったようです。

流石に正規の録音だけあって、ライヴ録音より細部が明瞭で音質も上回っていると思います。但しフル・オーケストラの量感には限界がありますし、マスタリングも「テレフンケン・レガシー」シリーズに比べれば落ちるのは致し方ない所でしょう。

演奏そのものは当時からシュトラウス本人より優れていると評価されたもの。現代の一般的な演奏に比べてテンポが速く、メロディー・ラインが明瞭に浮き出るのが特徴です。

参照楽譜
①ペータース Nr.587
②なし
③ペータース Nr.4192d

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