読売日響・第498回定期演奏会

このところ読響の11月定期は月も押し詰まった頃に行われるのが習わしのようで、今年は29日が当日でした。
因みに去年も来年も定期演奏会は月末の30日。11月の読響は劇場のピットに入る機会が多いようで、スケジュールの関係でしょう。いずれにしてもオーケストラとしてレパートリーが広がるのは良いことで、それが現在の好調に資していることは間違いなさそうです。

で、昨日の定期は常任指揮者カンブルランの登場。定期は年3回担当ですから、就任1年目のシーズンを締め括るコンサートでもあります。以下のプログラム。

ドビュッシー(コンスタン編曲)/「ペレアスとメリザンド」交響曲
コルンゴルト/ヴァイオリン協奏曲
     ~休憩~
マーラー(ブリテン編曲)/野の花々が私に語ること(交響曲第3番第2楽章)
シューマン/交響曲第4番(第1稿)
 指揮/シルヴァン・カンブルラン
 ヴァイオリン/ヴィヴィアン・ハーグナー
 コンサートマスター/藤原浜雄
 フォアシュピーラー/小森谷巧

これはプログラム発表時から話題になっていたコンサート。カンブルランならではの捻った選曲で、これ以上凝ると「捻くれた」プログラムになり兼ねません。ギリギリのところで踏み止まった内容です。

即ち、どの作品もワン・ステップ置いて日の目を見た音楽であること。プログラム誌によれば、カンブルランのコンセプトは“一筋縄ではいかぬ”ということになり、“ど真ん中への超変化球”ということにもなるのだそうです。流石にプロフェッショナルは上手いこと言いますねぇ~。
今回の4曲も直球は一つもなく、カーヴとシュート、フォークにナックルという具合。

最初のドビュッシーは、カンブルランが常任指揮者として最初に提示した≪3つの<ペレアスとメリザンド>≫の最終回に当たるもの。シェーンベルク、フォーレに続くテーマ作品です。

チラシなどでは「コンスタン編曲」と書かれていましたが、実際にはドビュッシーのオペラ「ペレアスとメリザンド」をマリユス・コンスタンが再構築して演奏会用「交響曲」に仕立て直したもの。スコアには Realization と表記されています。

コンスタンはドビュッシーのスコアにはほとんど手を加えず、全5幕の中から公平に、時系列に従い、主に場面転換の音楽を巧に繋いで仕上げています。

オペラと交響曲のスコアを対比してみると、第2幕第1場の音楽に僅かにティンパニを加えているのと、最後の場面でアルケルの歌“Je n’ai rien entendu…”をホルンに置き換えているのが、唯一確認できたコンスタンの「筆」でした。

交響曲版は、日本ではずっとジャン・フルネ老の専売特許状態だったもので、私も何度か翁の演奏で聴いた覚えがあります。
その意味でも今回は新鮮な体験。カンブルランの目指す「やや暗く、少し冷たい」弦の響き(プログラム誌のカンブルラン・インタヴュー)が読響の特質にマッチしていて好演でした。

2曲目のコルンゴルト。これは私が最も期待していた作品で、ナマでは初体験です。そして期待通り、ハーグナーの紡ぐストラディヴァリウス「サセルノ」の美音を満喫しました。

数年前にザルツブルク音楽祭が仕掛けたコルンゴルト・ルネサンス以来、この現代の名協奏曲が復活してきたのは喜ばしいことです。
今回取り上げられたのは、もちろんハーグナーの意向もあるのでしょうが、作品成立の由来がコルンゴルト自身の映画音楽(*)からの転用にあること。しかしこのヴァイオリン協奏曲は単なる借用作品ではなく、時にメンデルスゾーンやチャイコフスキーの名作を意識しつつも、伝統的な協奏曲のスタイルを踏襲しているところも魅力の一つでしょう。

ハイ・ポジションが多用される高度にロマンティックな音楽で、背の高い美人ソリストが楽器を高く掲げ、仰け反るように演奏するスタイルは視覚的にも見栄えのするものでした。

マエストロ・シルヴァン、次は是非コルンゴルトの交響曲を取り上げてくださいな。カッコイイんだから。(3年前に東京シティフィルで聴いたけど、もう一度聴きたい)

休憩を挟んで3曲目は、マーラーの膨大な編成の第3交響曲から第2楽章をイギリスのベンジャミン・ブリテンがより小さい編成のオーケストラ用にアレンジしたもの。こういうモノが存在すること自体、今回の定期で初めて知った次第です。当然ながら初体験。

で、ネットで検索したところ、パーヴォ・ヤルヴィが録音もしているようですし、どうやらブージー&ホークスから出版もされているようです。ただし売り譜のスコアは無いみたい。

今回が日本初演とは書いてありませんでしたが、いずれにしてもレアな体験。印象としては“こういうものもあるのか” という程度ではありましたがね。

メインはシューマンの名曲、第4交響曲。しかしカンブルランらしく滅多に取り上げられない第1稿が取り上げられました。

これも私にとってナマは初体験ですが、昔N響がサヴァリッシュの指揮でやりましたっけ。確かあの時はシューマンの主な管弦楽作品を数回の演奏会で集中的に取り上げ、第4交響曲は別の回ながら2つのバージョンで聴き比べが出来ました。私は放送をDATに録音して何度か聴いた覚えがありますが、DATそのものを処分してしまったので音源は残っていません。

曲解にもあったように、第4交響曲はクララ・シューマンとブラームスの間で評価が分かれ、第1稿支持のブラームスが強引に出版してしまったことでクララとの間が険悪になったことでも知られる因縁の「バージョン」です。

私の感想は、カンブルランの着想には敬意を表しつつも、ブラームスよりクララの鑑識眼を高く評価したい、というのが正直なところでした。
聴き慣れているという条件もあるでしょうが、第1稿は、例えれば競馬で1着に入りながら審議の結果で降着したようなもの。なんとなくスッキリしないモヤモヤ感が残ってしまうのでした。

ということで超変化球ばかりの11月定期、演奏そのものは直球勝負だったと思いますよ。

(*)私は映画には趣味がないので、コルンゴルトが転用した主題は耳に馴染はありません。今回の解説には親切にも使用された当該映画のタイトルが明記されていましたが、映画のタイトルは古いものほど原題と日本語題が異なるのが難点です。
オイレンブルク版スコアの解説に書かれた原題と日本語タイトルを対比させると次のようになります。

砂漠の朝 = Another Dawn (1937)
革命児ファレス = Juarez (1939)
風雲児アドヴァース = Anthony Adverse (1936)
放蕩の王子 = The Prince and the Pauper (1937)

興味ある方は、これで検索してみて下さいな。

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