今日の1枚(135)

ウィレム・メンゲルベルク Willem Mengelberg の没後50年を記念したオランダQディスクのラジオ・レコーディング集10枚組を聴き終えましたが、このセットにはもう1枚、付録が付いています。メンゲルベルクの指揮姿を観賞できるDVD。今日はこれを取り上げましょう。

全体は18分弱のディスクで、一面がNTSC方式、もう一面はPAL方式で収録されています。ご存知のように、前者は日本やアメリカで採用されている映像規格で、後者は主要ヨーロッパ各国の方式。他にSECAMという規格もあったと記憶していますが、あまり一般的じゃないようですね。

当セットの解説書には本盤についての解説はなく、DVDのメニューから「History」という項目を選べば画面上に解説が表示される仕掛けになっています。

それによると、この映像は1920年代に設立された Tobis Klangfilm という会社が制作したもの。サウンド・フィルム技術の先駆的存在かと思われます。
当時の技術では、現在のようにホール内にカメラとマイクを持ち込んで映像と音声をシンクロさせて記録することは不可能で、映像と音声は別々に収録されたようです。それを恰も同時に記録したように調整するのがトビス社の技術というわけ。

この話が持ち込まれた時、メンゲルベルクは“映像のために演技で指揮をするのは嫌じゃ!” と言って拒絶したそうですが、後世のために、如何にコンセルトへボウが演奏しているのかを伝えようと最終的にOKを出した由。

記録された映像を見るとアムステルダムのコンセルトへボウでの実際の演奏のように見えますが、現実にはパリ郊外(Epinay-sur-Seine)にあった同社のスタジオにコンセルトへボウに擬したセットを組み立て、そこで撮影されたのだそうです。
ジャケットに記載された記録によれば、1931年4月、 Films Sonores Tobis Studio 。

本DVDは、そのスタジオ収録に、1930年代初め頃のアムステルダム・コンセルトへボウ前を撮影したフィルムや客席の様子などの実写を加え、恰も一夜のコンサートのように編集した内容になっています。当然ながら音楽演奏もあって、以下の3曲が次々に登場。

①ウェーバー/歌劇「オベロン」序曲
②ビゼー/「アルルの女」第1組曲~アダージェット
③ベルリオーズ/劇的物語「ファウストの劫罰」~ハンガリー行進曲

1930年代初期の映像と録音ですから、画質・音質共に限界があるのは止むを得ません。シンクロが上手く行かずに音飛び(画飛び)状態になることも。

①では拍手に迎えられてメンゲルベルクが登場する所からスタート、マエストロも口を一文字に結んで、堂々と「演技」をこなしています。演奏は当セット1枚目とほとんど同じ(あたり前か)ですが、音飛びとは別に僅かなカット(126~128小節)もあったりして、中々の見ものです。

②は前後とも拍手の無い収録で、コンセルトへボウの弦楽メンバーを流しながら映し出す構図。
両ヴァイオリンは対抗配置に置かれ、ヴィオラは中央全面に、チェロはその後ろから右寄りに位置し、コントラバスは右手奥に並んでいるのが確認されます。
冒頭のヴィオラが大きく揺れる(ワウ)のは御愛嬌。

③では些かメンゲルベルクも興奮の面持ち。時々口を開き、目をカッと見開く形相は興味津々です。
音質は貧弱ながら全ての繰返しを実行して、単なる実験的映像の域を脱していると思いました。

こういうものですから敢えて楽譜を参照するまでもありませんが、一応記しておくと、
①オイレンブルク No.607
②オイレンブルク No.828
③オイレンブルク No.994

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