日本フィル・第626回東京定期演奏会
今年も12月、各オーケストラは2010年最後の定期演奏会を迎えています。日本フィルの12月を任されるのは、首席客演指揮者に迎えられたインキネン。弱冠30歳の俊英です。
出掛ける前に郵便受けをチェックすると、その日本フィルから葉書が・・・。
見ればアレクサンドル・ラザレフが日本フィルの首席指揮者の契約を5年延長! という一報。年の瀬に舞い込んだ朗報でした。
実は内々には聞いていたのですが、漸く正式発表に至ったようです。そもそもラザレフは、“契約を延長したいのですが・・・。” “はい、判りました” という単純な人物ではありません。
正式に受諾するのは確としたヴィジョンあってのこと。恐らくラザレフの頭の中には5カ年計画の青写真が既に出来、5年、いや7年後の日本フィルの姿が描かれているのでしょう。(ラザレフの統治は2016/2017シーズンまでとなります)
ということでイソイソとサントリーホールに出掛けると、プログラム誌には早くも次シーズンの予定が印刷されたチラシが挟まっています。
舌舐めずりするようにチェックすると、ラザレフは東京に3回、横浜にも3回登場します。東京ではラフマニノフ・ツィクルスが組まれ、横浜はブラームスが中心。
一方インキネンは東京にのみ集中し、今回からスタートするマーラー撰集を継続、第3と第5が予定に上っています。
その他注目は、毎シーズン客演の形で日フィルとの絆を保っている広上淳一が東京で1回、横浜で2回。久し振りとなる下野竜也の東京定期再登場。新たにスタートした横浜の「アジアの星」シリーズの第3・4弾などに集まりそう。早速カレンダーに○印を付けるメリーウイロウでした。
さて本題。
12月定期は、インキネンの希望と日フィルの要請がマッチしてスタートする「マーラー撰集」の第1回です。各回マーラーの大曲交響曲にシベリウスの「知られざる佳曲」を組み合わせる、というのがインキネンの狙いで、今回ピエタリが持ってきたプログラムは以下のものです。
シベリウス/組曲「クリスティアンⅡ世」作品27
~休憩~
マーラー/交響曲第1番「巨人」
指揮/ピエタリ・インキネン
コンサートマスター/扇谷泰朋
フォアシュピーラー/江口有香
ソロ・チェロ/菊地知也
毎月2日間の定期を組む日フィル、どうしても金曜日は客足が鈍り勝ちですが、この日は普段以上に客席が埋まっていました。期待の若手指揮者に注目が集まっている所為でしょうか。
インキネンのマーラー・シリーズは当初からライヴのCD化が決まっていて、いつも以上に大がかりな録音機材が目を惹きます。場内アナウンスでも“CD収録があるため、拍手は指揮者が手を降ろしてから” と注意を促していました。
冒頭のシベリウス。確かにこれは滅多に演奏されない作品です。かつて飯守泰次郎がシティフィルで演奏したのと、日本の北欧とも言うべき広島で聴かれた程度じゃないでしょうか。
私もCDや楽譜では知っていましたが、ナマでは初体験です。
実際、コンサートが終わってから聞かれた感想の多くは、“シベリウス、いい曲だねぇ~。” でした。シベリウスとしては初期の作品に属しますが、何処を取っても作曲者の個性に満ち溢れています。シベリウス・ファンはもちろんのこと、そうでない人も是非この機会をお聴き逃しなく。
インキネン/日本フィルも清冽な弦合奏を中心に、得意のシベリウス・ワールドを堪能させてくれました。
プログラム・ノート(奥田佳道氏)の曲目解説も日に微に入り細を穿ったもの。作品の理解には大いに役立ちます。
なお解説では第5曲の途中を一部カットして演奏すると書かれていましたが、どの場所かは判りませんでした。
因みにインキネンのCD(ナクソス盤)ではカットはありません(ブライトコプフ版のスコア)。
後半のマーラー。聴きどころ満載の野心的大作ですが、当然ながらインキネンのマーラーは「若者」の指揮。30歳の今だからこそチャレンジできる演奏と言うべきでしょう。
テンポを速めに採り、ケレン味なくマーラーの大胆な試みを再現していく。繰り返しは全て丁寧に実行し、冒頭のフラジョレット、ホルンのゲショトプフ奏法、コントラバスのソロ、大詰めでの金管起立など、聴きどころ・見どころをタップリと楽しませてくれました。
月並みですが、将来有望、の一言。これに続く中期・後期のマーラーをインキネンがどう表現するかに興味津々です。
今日のコンサートのもう一つの注目は第2ティンパニ。9月に横浜でお目見えした、彼のミラノ・スカラ座で主席を務めていたティンパニストの再登場です。現在は事情があって日本在住ですが、○○君の妙技が聴ける絶好のチャンスですぞ。
コンサート終了後はサイン会も開かれるようで、CD売り場にもかなりの人だかりが出来ていました。
マエストロ自身の「クリスチャンⅡ世」の録音、先行発売となるインキネン/シベリウス交響曲全集の第1弾に交じって、前回来日時にセッション収録したラザレフのシベリウス(第2交響曲他)のSACDも並んでいます。
東京定期での特別価格での販売という戦略にも乗せられて、定期会員の財布の紐も少しは緩んだようでしたね。
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