今日の1枚(17)

今日は小寒です。御用始ですが、私には関係ありません。日の出が6時51分ですから、1年で最も朝が遅い季節。布団から出るのが辛い、と言いたい所ですが、この所の東京は暖かくて散歩をしてくると汗を搔くくらいです。

今日の1枚は再びモノラルに戻り、またしてもフルトヴェングラーの録音から。
①ベルリオーズ/「ファウストの劫罰」~ラコッツィ行進曲
②シューマン/「マンフレッド」序曲
③ニコライ/歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲
④リスト/交響詩「前奏曲」
⑤スメタナ/交響詩「モルダウ」

いずれもウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団で、東芝EMIのフルトヴェングラー全集。TOCE-3751 。
録音データは、
①1949年3月31日
②1951年1月24・25日
③1951年1月18日
④1954年3月3日
⑤1951年1月24日
全てウィーンのムジークフェラインザールでの収録。どの録音にもプロデューサー、エンジニアの名前がクレジットされていません。
されていませんが、ライナーノーツ(平林直哉)の通り、ウォルター・レッゲが糸を引いていたことに間違いはありません。

①が最も古いもので、②③⑤は同じ時のセッション。④が巨匠最晩年の録音です。
これらはどれもフルトヴェングラーがコンサートではほとんど、あるいは全く取り上げなかったものばかり。こうした作品をフルトヴェングラーに録音させたという点がレッゲの凄さですし、巨匠も単なるヤッツケ仕事としていないことがハッキリ判る内容になっています。

①には繰り返しが4箇所ありますが、フルトヴェングラーは3番目の繰り返しを省略。録音もこの中では古く、特にフルトヴェングラーで聴く必要も感じません。最後のリタルダンドは慣習通り。
同時に録音された②③⑤。③が最も聴きやすい音。作品自体が大業なものではありませんし、ウィーン・フィルだから録音したようなもの。

②だけはフルトヴェングラーも時々演奏会で振っていたはず。気合が違います。シューマンはフルトヴェングラーに最も適した作曲家でしょう。スコアに書かれている指示はほとんど無視していますし、冒頭の Rasch(速く)なんて全然速くなく、むしろ遅く。全体にテンポの揺れが激しく、マエストロの足音も構わず収録されています。
182小節と183小節の木管の付点リズムにはホルンを重ねています。

⑤のモルダウも昔LPで良く聴いた盤。最初と最後に特徴があります。
冒頭はフルートが暖かい水源、クラリネットが冷たい水源ということになっていますが、ウィーンフィルのフルートは如何にも暖かい水という感じがします。
後は最後のモルダウが流れ去っていく光景。大クライマックスの後、フルトヴェングラーは、変な表現ですが、「壮大なリタルダンド」をかけます。楽譜にはディミニュエンドとは書いてありますが、リタルダンドなんて指示はありません。しかしこれが何とも効果的。録音はオーバーフロー気味で聴き辛い箇所も多いのですが、演奏の素晴らしさで聴かせてしまいますね。

④もフルトヴェングラーならでは。壮大な演奏です。これは録音も比較的新しいので、ウィーン・フィルの美音が楽しめます。コントラバス、ティンパニ、ホルン、特に4番ホルンの素晴らしい音質!!
フルトヴェングラーもスコアに手を加えていて、例えば327-328小節の高音にはピッコロを重ねてます。
もっと面白いのはパストラール。ここは弦楽器を全体に少なくして演奏していますが、235小節から240小節までの第1ヴァイオリンのパッセージはソロで弾かせていますね。恐らくボスコフスキーが弾いているのでしょう。当然ながら、楽譜にはそんな指示はありません。
コンサートのレパートリーにない作品でも、フルトヴェングラーはここまで譜読みに徹して録音に臨んでいたという動かぬ証拠。
この資質を見抜いて、巨匠を録音現場に引き摺り出したレッゲの慧眼。
結局我々はレコード産業の手練手管に乗せられた訳なんですが、それで現在でも貴重な記録に接することが出来るのです。

尚、このブックレットでモルダウの曲目解説を書いているのは高校3年の同窓生の評論家Y君。
「総譜のところどころには、モルダウの第1の源(曲頭)、第2の源(16小節目)、森の狩(80小節目)というように、プログラムとの対応関係が記されて、」と書いてあるけれど、私の使っているスコアには16小節目に第2の源なんていう書き込みはありませんがね、Y君。

参照楽譜
①オイレンブルク全曲版 No.994
②オイレンブルク No.646
③ユニヴァーサル(フィルハーモニア) No.41
④オイレンブルク No.449
⑤オイレンブルク No.472

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