今日の1枚(143)

そろそろお正月気分も抜けましたので、いつものブログ・スタイルに戻りましょうか。
と言っても演奏会に出掛けるのは暫く先のことになりそうだし、ヨーロッパの競馬はシーズン・オフ真只中。外は寒いし、CDでも聴いて過ごすしかないでしょうな。

ということで今日の1枚を暫く続けましょう。

去年はメンゲルベルクを集中的に聴き終えたところで切り良く一年が終わりました。今年は何を聴こうか思案ですが、以前にフルトヴェングラーも取り上げましたから、順番から行ってこの人しかないでしょう。
そう、アルトゥーロ・トスカニーニ Arturo Toscanini です。

実はトスカニーニは以前にも取り上げました(11~14、110)。今年はその続き、ということで。
中心になるのは日本盤の「トスカニーニ・ベスト・セレクション」シリーズですが、その前に海外盤を何点か聴くことにしました。BMG Classics から1999年に発売された Arturo Toscanini, The Immortal の2CDシリーズ。まぁ「不滅のトスカニーニ」とでも言いましょうか、考えることは洋の東西で同じと見えます。

このシリーズで手元にあるのは3組。最初はその第6巻で、 Great Symphonies と題した2枚モノです。
その1枚目は、

①モーツァルト/交響曲第40番ト短調K550
②ハイドン/交響曲第94番ト長調「驚愕」
③ケルビーニ/交響曲ニ長調

全てNBC交響楽団との演奏で、CD番号は 74321 59481-2 。UV 22 方式による20ビットのリマスター盤というのが謳い文句です。

実は①と②は既に取り上げた日本盤と同一(①は14、②は13)ですので、ここではパスします。ただ同じ原盤の日本盤と比べると、当盤は僅かながらエコーがかけられていて、それが好き嫌いの分かれ目でしょう。

データだけ再録しておくと、
①1950年3月12日 NBCスタジオ8-H
②1953年1月26日 カーネギーホール
③1952年3月10日 カーネギーホール

さて③、ケルビーニの交響曲は録音自体が珍しい作品でしょう。ケルビーニ唯一の交響曲です。
ケルビーニと言えばベートーヴェンが絶賛したイタリアの巨匠。トスカニーニ特意のレパートリーであることは当然ですが、チェリビダッケが何度も取り上げていたことはあまり知られていないようです。もしチェリの録音が残っていれば、トスカニーニとの聴き比べはさぞ面白いことでしょうね。

ケルビーニが二度目にロンドンを訪れた1815年3月、ロイヤル・フィルハーモニック協会のために作曲したもので、ベートーヴェンは交響曲を既に第8番まで書き上げていました。
従ってベートーヴェンに影響を与えた作品ではないでしょうが、如何にもベートーヴェンが好みそうな動機労作と推進力に富んだ名曲。死ぬまでに一度はナマ演奏で接してみたい交響曲ではあります。

ところでケルビーニは、この曲を後に弦楽四重奏曲に再構築しています。それが弦楽四重奏曲第2番で、調をハ長調に変更し、第2楽章は新たに作り直したものですが、他の楽章は交響曲とほぼ同じ音楽。

トスカニーニの録音で注目すべきは、第1楽章でケルビーニが四重奏に改訂したアイディアを逆輸入していること。これはブックレット(解説者の名前はクレジットされていません)にも書かれていますが、恐らくトスカニーニはチェロ奏者だった時代に弦楽四重奏版を自ら演奏したことがあり、これを交響曲の演奏にも取り入れたのだろうと想像されます。

全体は4楽章。第1楽章はラルゴの序奏のあとアレグロの主部。第2楽章はラルゲット・カンタービレ。第3楽章がメヌエット、第4楽章アレグロ・アッサイの26分ほどの佳曲です。

第1楽章で具体的にトスカニーニが手を入れた箇所は(もちろんケルビーニ自身の改訂)、(1)序奏第18小節のヴァイオリンの上向音型。(2)主部結尾主題の木管パートをシンコペーション音型に変えているところ(提示部は115~117と、121~125小節。再現部では309~311と、315~321小節)。それに(3)再現部第2主題直前の第2ヴァイオリンのリズム音型(第263小節)の3箇所です。

それに加えて提示部コーダのストレッタ(195~209小節まで)のテンポをプレストに変更していますが、これは弦楽四重奏版にも無いことで、恐らくトスカニーニがコーダの第338小節以下と整合させるために敢えて行った変更と思われます。

第1楽章、第2楽章とも提示部の繰り返しは省略していますが、第3楽章メヌエットとトリオの繰り返しは全てスコア通り実行。第4楽章には繰り返し記号はありません。

ところで第2楽章に出る6連音は、いつも聴いていてモーツァルトのジュピター(第2楽章)を思い出してしまいます。特にホルンが低音で締め括るところなど、明らかにケルビーニは4歳年上のモーツァルトを意識していたのではないでしょうか。

録音はもちろんモノラルながら最高水準のレヴェル。トスカニーニの録音では先ず指を折るべき素晴らしい演奏だと思います。
ケルビーニの交響曲、聴くべし。

参照楽譜
①ユニヴァーサル(フィルハーモニア) No.27
②ユニヴァーサル(フィルハーモニア) No.26
③ヘフリッヒ No.112

なお③のヘフリッヒ社スコアは、交響曲の他に弦楽四重奏曲第2番も併せて収録されている優れもので、トスカニーニが改訂した箇所もバッチリ確認することができます。
ヘフリッヒの Repertoire Explorer シリーズは、これまで入手困難だった作品のスコアを次々と復刻させており、目が離せない出版社ですね。

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