今日の1枚(145)

トスカニーニ指揮NBC交響楽団の名演を集めた Arturo Toscanini, The Immortal の2CDシリーズ、手元にある2セット目は第11巻。合唱曲集と題されたタイトルで、1枚目はヴェルディの大作「レクイエム」です。

1曲をCD1枚に収録したもので、全曲を77分ほどで演奏しているのは、さすがにテンポの速いトスカニーニならではでしょうか。
CD番号は 74321 72373-2 、20ビット・リマスター盤。

1951年1月27日、カーネギーホールで行われたNBCによる放送録音で、明らかに聴衆を入れたコンサートであることが客席ノイズから聴き取れます。
この録音の初出は2枚組のLPで、ヴィクターの LM 6018 。4面にたっぷりと刻まれていました。

ソプラノはヘルヴァ・ネリ Herva Nelli 、メゾ・ソプラノがフェドーラ・バルビエリ Fedora Barbieri 、テノールはジュゼッペ・ディ・ステファーノ Giuseppe di Stefano 、バスがチェーザレ・シエピ Cesare Siepi というソリスト、合唱はロバート・ショウ合唱団という陣容です。

当盤のブックレットには歌手のプロフィールが一切紹介されていませんが、バルビエリ、ステファーノ、シエピの3人は当時30歳前後の若手で、この頃からニューヨークのメトロポリタン歌劇場でも歌い始めたフレッシュなメンバーでした。
(バルビエリは1920年生まれ、ステファーノが1921年、シエピは1923年。みな高名な歌手ですが、録音当時は期待される新人だったことに注目して聴くべきでしょうね。)

ソプラノのネリは現在ではあまり馴染がありませんが、他の3人より一回り上の1909年生まれで、ここではヴェテランという役回りでしょうか。
どんな歌手か調べていたら、トスカニーニと共演している映像がありました。同じヴェルディのアイーダのアリア、こちらからご覧ください。

http://www.youtube.com/watch?v=rcweoJiDifg

何でもトスカニーニは、この演奏会の直前に合唱団を更に40人追加するべく指示。合唱団の副指揮者レイフ・ハンター Ralph Hunter が1週間で歌手を集めて猛特訓を施した結果、見事な成果を上げた由。

モノラルによる大規模な合唱作品ながら、スケールの大きな演奏を良く捉えた優れた優秀録音。もちろん古さ故の限界はありますが、それを忘れさせるほど熱い演奏で古さは全く気になりません。
サンクトゥスが始まる前に合唱団がサッと立ち上がるノイズもバッチリ収録され、生々しいライヴの興奮が伝わってきます。

ディエス・イレの大太鼓の迫力はトスカニーニ渾身の指揮を思わせますし、Tuba mirum を先導する金管のファンファーレでは巨匠の叫び声も聞かれます。
(演奏中に叫ぶのはトスカニーニとシェルヘンくらいですかね)

細かいことですが、ディエス・イレの Recordare を伴奏する低弦では、424小節目のピチカートを省略しています。チェロとコントラバス全員が弾かないのですから落ちたわけではないでしょう。何かトスカニーニの意図があると思われます。

またサンクトゥスのクライマックス、管弦楽が半音で上下する下りでは第127小節の頭にティンパニの一撃を追加しています。
そして最後の in excelsis でスコアに書かれていない大きなリタルダンドをかけますが、これは極めて自然な流れでしょう。

終曲リベラ・メ冒頭のア・カペラの合唱の間に、奇妙なノイズが二度聞こえます。携帯電話など無い時代、非常ベルが誤作動でもしたのでしょうか。よぉ~く耳を澄ますと聞こえるはず。

参照楽譜
オイレンブルク No.975

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