今日の1枚(149)

今年に入ってからトスカニーニを聴き続けていますが、いよいよメインのシリーズ、BMGジャパンから発売された「トスカニーニ・ベスト・セレクション」に行きましょう。
その前に、私とこのシリーズの出会いから。

CDが世に出始めたのは1983年頃からだったと思いますが、私は船出から1年ほど経った時に、雑音の無いこと、LPのように劣化を心配することが無いこと、繰り返し聴いても傷まないこと、利便性に長けているなどから、比較的早くにLPからCDに乗り換えた口でした。

ところが聴き始めて数年、何ともCDの音の悪さに耐えられなくなってしまったのです。世間でもデジタル臭さと表現していましたが、やたらに固く、キンキンして長い時間の鑑賞には耐えられない。
冷蔵庫で冷凍すると改善されるとか、ナイフで盤面を傷つけると良くなるとかの噂が立って、私もいろいろ試してみました。
しかし結局は全てダメ。折角何百枚も買い込んだCDの大半を手放すことになります。

CDに絶望し、かといってLPにも戻れず、それから暫くはより高音質のDATに鞍替えしましたが、これはソフトが絶対的に少なく、家庭で音楽を楽しむことには諦めを感じ始めていました。

そのなとき、ヒョンなことから手にしたのが、トスカニーニ・ベスト・セレクション。何とCDの常識を破るほどに音質が改善されていたのです。
秘密は日本ビクターが開発した「K2テクノロジー」。技術音痴なので詳しいことは判りませんが、要するに、CDがカットしてしまった実際には人の耳には聞こえない音域を回復するテクニック。
嬉しいことに日本人技術者が開発したテクノロジーで、開発者二人の頭文字を取って「K2」と名付けられた由。(桑岡俊治氏と金井実氏)

私がK2を初めて聴いた時、このシリーズは既に発売されてから数年が経過していました。店頭では残り少なくなった在庫を求めて、大袈裟ながら東京中のレコード店を探しまわったものです。(当時は大型輸入CD店はありませんでした)
結局全ては手に入りませんでしたが、手元には懐かしいトスカニーニ探しの成果が残されています。

ということで、当時としては破格の1000円盤をシリーズの通し番号順に聴いて行きましょう。
実は既に「今日の1枚」でも5枚ほど取り上げてきましたから、その続きということになります。(11、12、13、14、110)
先ずはベスト・セレクション第3集。

①ベートーヴェン/交響曲第1番
②ベートーヴェン/交響曲第2番

録音データは、

①1951年12月21日 カーネギーホール
②1949年11月7日と1951年10月5日 カーネギーホール

手元のCDの品番は BVCC-9913 。1997年3月発売の一品です。

ということで、刻まれた音質はLPを再生しているような暖かさを感じるもの。デジタル特有の固さはほとんど感じられません。また同じ音源の海外盤に微小なエコーが加えられていたのに対し、日本盤にはわざとらしさも皆無。音に関しては日本人の感性の方が優れていることを証明する1枚でもありましょう。

ただ残念なのはブックレットが貧弱なこと。シリーズ全体の自画自賛、トスカニーニの年譜、シリーズの陣容、K2に関する技術的な紹介の他には、楽曲の基本的な情報が書かれているだけ。
日本盤は音質面では優れているものの、解説などのソフト面では物足りないのが難点です。

それでもブックレットはオリジナルLPのデザインを使用しており、かつてLPで馴染んでいたファンはついつい手に取ってしまう仕掛けが施されているのも特徴。
当盤はベートーヴェンの肖像画を中心にあしらったもので、確か全集セットのジャケットにも使われていたと記憶します。

WERMによると、①は第9交響曲とのカップリングで、HMVから FALP 191 として2枚組LPの第4面に刻まれていたもののようです。(ヴィクターのセットでは LM 6009)

一方②は第4交響曲とのカップリング、HMVの ALP 1145 が初出で、ヴィクターからは LM 1723 で発売されていました。

①②ともに客席ノイズは無く、特記されていないもののセッション録音であることが判ります。
また②は二度に分けて収録したものを編集したようですが、編集の痕跡は全く判らず、一曲の演奏として充分に楽しめる内容。

録音もカーネギーホールの音響を上手く取り入れたもの。トスカニーニの緻密な演奏が、適度なホールの残響と見事に融合しています。


第1楽章序奏の最後に出る下降フレーズは、序奏のテンポに合わせています。先日取り上げたメンゲルベルクとは異なる解釈。提示部の繰り返しは実行。
また提示部最後、第105小節の4拍目にティンパニ加筆。第1主題再現時の183小節と184小節にもティンパニを加筆しています。

第2楽章の繰り返しは省略。
第3楽章の繰り返しは全て実行し、メヌエット(実質はスケルツォ)主部が再現する際の前半の繰り返しは実行していません。ここもメンゲルベルクとは違う箇所です。

第4楽章の繰り返しは実行。


序奏部冒頭、フェルマータの後に休止を挟まないのは珍しいでしょう。ダダーンという和音の後、直ぐに木管のメロディーが顔を出します。
第1楽章の繰り返しは省略。

第2楽章では、第1主題後半の再現部でスコアの付点音符を8分音符二つに変更しているのが面白いところ(第178小節)。明らかに提示部と整合させていると思われます。

第3楽章の繰り返しはもちろん全て実行。

参照楽譜
①ユニヴァーサル(フィルハーモニア) No.7
②ユニヴァーサル(フィルハーモニア) No.8

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください