SQWガレリアのクァルテット・プラス

昨日の土曜日は晴海の第一生命ホール、クァルテット・ウィークエンドのシリーズから、クァルテット・エクセルシオの公演を聴いてきました。
晴海の名物企画も今シーズンからはスッカリ様変わり、湾岸地区に足を踏み入れるのも久し振りです。来年もあるのかどうか、未だにスケジュールが発表されていないところを見ると、先行き不透明ということなんでしょう。
昨日のプログラムは、

ボロディン/弦楽四重奏曲第2番
リゲティ/弦楽四重奏曲第1番「夜の変容」
     ~休憩~
シューマン/ピアノ五重奏曲
 クァルテット・エクセルシオ
 小山実稚恵(ピアノ)

曲目を見て判るように、今回はゲストに小山実稚恵を迎えての五重奏曲が入ります。そう、エクは新たに「クァルテット・プラス」というシリーズを立ち上げ、今回がそのスタート。即ち、弦楽四重奏に他の楽器を加えて、新しい室内楽の境地に踏み込もうという企画です。
ホールの思惑にエクが応えたのか、そもそもエクの狙いが先だったのかは知りませんが、この試みは一先ず大成功。客席は両方のファンで埋まり、いつになく賑っていました。

これまでエクは、第一生命ホールでは主に現代モノを中心にしたプログラムで勝負してきました。その意味では真ん中に置かれたリゲティがメイン・ディッシュという趣もあります。
その前に、先ずはボロディン。

私がエクのボロディンを聴くのは初めて。有名な第3楽章の夜想曲は何度かアンコールで楽しみましたが、全曲は初体験でした。
ボロディンは、定期でのエクの主食であるモーツァルトやベートーヴェンの音楽とは文法が異なります。もちろん形式は伝統的な四重奏のスタイルに沿ったものですが、言語的にはドイツ・オーストリアのそれとは根本的に別。

エクの演奏も、それを意識してか否かは知らねど、一層肩の力が抜けた演奏。私には彼らの余裕とも聴こえました。

続くリゲティ。これは圧巻でしたね。流石に現代モノには一家言あるエク、取り敢えず譜面を音にして見た、というレヴェルを遥かに超えた高度な解釈に圧倒されます。
大友チェロの顔つきが前曲とはガラリ一変していたことでも、その気迫が伝わろうというもの。
恥ずかしながらリゲティのクァルテットがこんなに面白いものであることを知りませんでした。その音楽は根底にあるハンガリーの民族色、ウィーン古典派の伝統的な語法、そして当時の最先端を走っていた現代的な感覚とが見事にバランスされたもので、通して演奏される長大な楽章に退屈感は全く感じられません。

ここが不思議なところですが、エクで聴く現代モノには「ムツカシサ」が皆無。偏に、彼らが最高水準のテクニックを持ち、何より作品に共感を持って演奏しているから可能なこと。それに尽きるのじゃないでしょうか。

後半は、ピアノが加わるシューマン。この五重奏曲は名曲中の名曲、何の注釈も要らないでしょう。
ただ言えそうなことは、シューマンの音楽の中でも最も明るい性格の作品であろう、ということ。本来ピアノと弦は水と油のような側面もありますが、シューマンはそれを逆手にとって、寧ろ違いを楽しんじゃう所がある。
この日のエク+小山は、高いレヴェルのアンサンブルを聴かせながら、根本は合奏を楽しむ姿勢に溢れていました。一見すると深刻そうな葬送行進曲も、思わず微笑みが零れてくるような演奏。

前曲が終わり、今日はそのままお開きかと予想していましたが、以外にもアンコールがありました。
曲目を告げる前にファースト・西野は、“第一生命ホールでのエクのコンサートでは、今回は一番お客さんが入りました。それも共演して頂いた小山さんのお蔭で・・・” と。何とも正直なコメントに会場も爆笑。
楽しくも素敵なドヴォルザーク(ピアノ五重奏曲のフリアント楽章)がプレゼントされました。

「クァルテット・プラス」は今回が第一回と公言されていましたから、今後も様々な企画が続くでしょう。ほぼ一年後には、今日と同じ小山実稚恵との組み合わせがフィリア・ホールでも実現するはず。

ピアノはもちろん、チェロを加えた五重奏にも、ヴィオラを加えた五重奏にも名曲が残されています。もちろん管楽器もあるでしょうし、意外な組み合わせが登場してくるかも知れません。
シェーンベルクには声楽付の弦楽四重奏曲もありますしね。

シェーンベルクと言えば、ヘンデルの合奏協奏曲を弦楽四重奏と管弦楽に編曲したものもありましたっけ。一層のこと、クァルテット・プラス・オーケストラ、なんてどうかしら。
アメリカの作曲家ベンジャミン・リーにはオリジナルの「弦楽四重奏協奏曲」があったはず。夢がいろいろ広がる企画です。

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