第4回クァルテット・プラス

以前は熱心に通っていた第一生命ホールのSQW(クァルテット・ウイークエンド)ですが、最近はすっかりご無沙汰。春浅い昨日の日曜日、久し振りに晴海に行ってきました。
晴海常連(常設ではない)三団体の一つ、クァルテット・エクセルシオがここで行っているクァルテット・プラス、今回は4回目となります。今回のゲストはハープの第一人者である吉野直子。

ドビュッシー/神聖な踊りと世俗の踊り
ドビュッシー/弦楽四重奏曲
     ~休憩~
フランセ/弦楽四重奏曲
マリピエロ/5つの楽器のためのソナタ
カプレ/幻想的な物語~E.A.ポー「赤い死の仮面」による
 クァルテット・エクセルシオ
 ハープ/吉野直子

ハープと弦楽四重奏による編成は作品の数も決して多くは無く、今回は代表的な曲が並びました。何れもラテン系作曲家の比較的短い作品です。
前半のドビュッシーは時折演奏されますが、後半は滅多に聴く機会が無いもの。その意味でも貴重な体験でした。

演奏会は大友チェロとゲストの吉野氏とのトークを挟みながら進められ、内容的にもお得なコンサートだったと言えるでしょう。作品の紹介に加え、両人の御母堂の意外な繋がり、ハープの楽器解説からドビュッシー作品のアナリーゼまで、いつまでも聞いていたい話の連続でした。

冒頭はドビュッシーが開発されたばかりのクロマティック・ハープの試験用に書いた楽曲の弦楽四重奏版。原作はハープと弦楽オケによる編成で、私はその形を音盤(マルケヴィッチ盤など)で親しんできましたが、今回の版は初めて聴きました。
タイトルの通り二つの舞曲がアタッカで続けて演奏されるもの。例えば最初の「神聖な舞曲」は、オリジナルではハープのソロをコントラバスの持続音が支え、チェロがピチカートを点滅させながら曲を閉じますが、舞台を見ていると、コントラバスのパートはチェロが、チェロのパートをヴィオラが受持つというアレンジになっていました。
この版に編曲?したのが誰なのかは判りませんが、市販されている音源もあるようです。

続く弦楽四重奏は、今回のプログラムでは最もポピュラーなもの。エクも度々取り上げていますし、私も何度か聴いた覚えがあります。解釈としても確立されており、エクならではの新鮮味を失っていない音楽。
今回は演奏の前に簡単なアナリーゼを実音付きで実施、全体が一つの音形で構成されていることが紹介されました。初めて聴かれる方には大いに参考になったことでしょう。

後半はフランセの短いクァルテットで開始。夫々3分ほどの4楽章から成る作品で、全体でも12分ほど。明るい民謡風な響きが耳に快く、あっという間に終わってしまう印象。第3楽章のピチカートが楽しく、最後に静かな後奏で終わるのが特徴でしょうか。楽譜はショット社から出版されていますが、私は見たこともありません。

ここからは再びハープが加わり、この編成ならではの作品が続きます。
先ずマリピエロは余り聴く機会の無いイタリアの近代作曲家。吉野氏も知っているのはこれだけ、と語っていましたから、珍品に属するでしょう。解説にもありましたが、ハープと弦楽四重奏が決まった編成という訳ではなく、ヴァイオリンの代わりにフルート、ハープに変えてピアノでも演奏可。従ってタイトルは「ソナタ・ア・サンク」Sonata a 5 ということです。
マリピエロの作品は多くがリコルディから出版されており、これも入手できますが、残念ながら私は見ていません。単一楽章で、多彩な楽想が次々に繰り出されていく趣向。讃美歌風な響きも登場します。

最後のカプレも、その作品を聴く機会は滅多にありません。ドビュッシーの聖セバスチャンの殉教のオーケストレーションを手伝ったり、やはりドビュッシーの「子供の領分」の管弦楽版をアレンジしたことで知られる人です。
本人はドビュッシーの亜流、影武者と見られることを嫌っていたようですが、第一次世界大戦で毒ガスを吸った後遺症のため46歳で早逝したという不幸な作曲家でもありました。従って残された作品も少なく、私が知っているのもほぼこれだけ。

幻想的な物語は、以前にジョルジュ・プレートルが録音したポー絡みの作品集という音盤があって、そこに収録されたものを聴いてきました。これはドビュッシーの「アッシャー家の崩壊」、フランツ・シュミットの「幽霊宮」と組み合わされたもので、どれもポーの小説を題材にしたもの。ここでもドビュッシーとカプレとには接点があるのです。
そもそもアメリカの作家ポーをフランスに紹介したのはボードレールで、カプレもボードレール訳で「赤死病」を知った由。プレートル盤にはクレジットがありませんが、管弦楽版とは言いながら聴いている限りでは弦楽合奏とハープで演奏されているようです。今回の四重奏版(例によって編者は不明)は、冒頭のドビュッシー舞曲集と良く似た傾向のアレンジと聴きました。
昔はデュランから出版されていたようですが、どうもスコアは現在では入手不能のよう。今回のプログラム解説にも詳しい分析は無く、耳で聴いた範囲だけでの印象となります。

凡そ20分弱、ポーの筋書きに沿って展開して行くようで、仮面舞踏会を連想させる3拍子の舞曲風のあと、ハープが12点鐘を打つところが柱時計の時報を描写していることが判ります。12点鐘はプロコフィエフのシンデレラやシュトラウスの「バラの騎士」(マルシャリンの独白)にも登場する伝統の手法ですが、何と言ってもサン=サーンスの「死の舞踏」冒頭を連想させます。あれも夜中の12時から始まりますが、カプレと同じくハープが時を刻むのがソックリ。
これ以上に面白かったのが、12点鐘直前にハープが木枠を叩く所。譜面を見たことが無いので想像ですが、これは奏者がアットランダムに楽器を拳で連打するのでしょう。小説に出てくる7番目の部屋のドアをノックする音でしょうか?
こうした個所も含め、カプレ作品は今回のプログラムでは最も骨っぽい音楽でした。いずれ譜面を見てみたい一品です。

会場の歓声に応え、アンコール。吉野氏が“赤死病で終わるのもなんですから”と挨拶し、冒頭のドビュッシーから後半の世俗の踊りが繰り返されました。
クァルテット・エクセルシオ、年2回の定期では四重奏の王道をプログラムに据える一方、定期的に開いているラボではクァルテットの新しい世界に挑戦。そして晴海のプラス・シリーズでは編成を広げて室内楽のレパートリーを確実に広げてくれます。
こうした開かれた室内楽への姿勢こそ、私が彼等を応援して行く根拠でもあります。次はどんなプラスが聴けるか、毎回が楽しみでなりません。

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