クァルテット・エクセルシオ第27回東京定期演奏会

結成20周年を迎えた常設の四重奏団、クァルテット・エクセルシオがその20周年記念シリーズをスタートさせました。昨日はその開幕を飾る東京定期演奏会、上野の東京文化会館が改装中のため、今回は新たに浜離宮朝日ホールを会場として行われました。
梅雨空が続き、弦楽器には必ずしも条件が良くない高湿度の中、大江戸線の築地市場駅に降り立ちます。プログラムは以下のもの。

ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第3番ニ長調 作品18-3
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第11番へ短調 作品95「セリオーソ」
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第8番ホ短調 作品59-2「ラズモフスキー第2」

そう、オール・ベートーヴェン。ベートーヴェンこそエクが定期演奏会の中核に据えてきたもので、記念の年に開催される2回の定期は全てベートーヴェンで固めました。
“またベートーヴェン?” と思われる向きもありましょうが、こと弦楽四重奏というジャンルに限っては、ベートーヴェンは何度演奏しても、繰り返し聴いても、その度に新たな発見がある作品群。決して聴き飽きるということはありません。
もしベートーヴェンがいなかったら、クラシック音楽の世界は、いや人類の歴史は相当に違っていたものになっただろうと考えざるを得ません。

浜離宮朝日ホールに出掛けたのは何年振りでしょう。以前小川典子がここでドビュッシーとラヴェルの室内楽作品を連続して取り上げたことがあって、それ以来かしら?
ホールに入ると、ホワイエには堤剛氏から贈られたフラワー・スタンドが据えられ、客席にも名演奏家の姿がチラホラ。エクの定期は日本楽壇の風物詩の一つに定着した感があります。

さすが20周年と感慨を覚えたのは、手渡されたプログラム。今回は定期一回だけの冊子ではなく、年間を通したシリーズとしてのプログラムで、全体で40ページ。シリーズ全8回の演奏会を包括し、プログラム・ノートの執筆者も野平一郎、渡辺和、山野雄大の3氏による力作。これまでとは一新されています。
曲目解説の他に渡辺和氏による「クァルテット・エクセルシオ史」が2部構成で掲載されており、これが大変な読み物。とても演奏会前の時間で読みきれるものではなく、帰宅してからジックリ拝読させて頂きました。
資料としても極めて貴重なもので、初めて知ったエピソード満載。エクの歴史は日本における室内楽の歴史でもあり、室内楽ファンのみならず全てのクラシック・ファンが知識として知っておくべき内容でしょう。8回の演奏会全てで配布されるでしょうから、音楽ファンたるもの少なくとも一回はエク結成20周年シリーズに出掛け、この永久保存の価値あるプログラムをゲットすべし。

ということでベートーヴェン。作品については特に触れる必要もありませんし、エクも定期では既に取り上げた作品たち。出来得れば全曲演奏会と行きたかったところですが、2回に振り分けたのは初期・中期・後期を明確に分けつつもバランスよく配置した構成です。
このバランスが実に見事だと思いませんか。最初は作品18でも最初に書かれたという第3番。全16曲の中では最も短く、しかし集中力に富んだセリオーソ、そしてラズモフスキーからは個人的に最も好きな2番と。
ラズモの2番は、これを挟む2曲とは違って内省的な性格。3曲の中から一つ選べと言われれば、私は断然2番ですね。それがエクの選択と一致したことも嬉しいじゃありませんか。そう言えば2番、今年は既にサルビアでもミロ、パシフィカの名演にも接したばかり。彼等も2番を選んだところなど、思わずニンマリさせる事件ではありました。

浜離宮朝日ホールで聴くエクのベートーヴェンは、最適なバランスと緻密なアンサンブルに優れたもの。例えば20世紀中頃のスタンダードに比べればテンポはやや速目。これが21世紀の基準でしょう。
技巧や感情を押しつける箇所は皆無ながら、常設クァルテットならではの均質な合奏と推敲を尽くした解釈。これこそ大人の弦楽四重奏と言えるでしょう。お腹一杯、というよりはまた聴きたくなるようなベートーヴェンとでも言っておきましょうか。
一音一音がクッキリ聴こえる、という感想を耳にしましたが、これは必ずしもホールの音響特性だけではないでしょう。実演でも録音でも、先ずは演奏者の感性があっての世界なのですから。

このあとエクは同じ曲目で第7回となる札幌定期に向かい、秋にはベートーヴェン・プログラムの2回目、後期の2曲で東京と京都で勝負します。
更には今年からスタートする名曲を並べる「弦楽四重奏の旅」シリーズが2回、エクの活動のもう一つの中心たる現代作品に挑戦するラボ、晴海で続けている「Quartet+(プラス)」と続く予定。初心者からコアなファンまで虜にするエクの秘密は、是非「クァルテット・エクセルシオ史」で。
それにしても今年10月のラボ、世界を唸らせたバルトークはもちろん、野平作品で日本人のアイデンティティーを確認しながら、ヴィドマンの何じゃこれ、ぶっ飛びクァルテットまで紹介するんですから、これはもう全部聴くしかないでしょ!

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