今日の1枚(169)

トスカニーニ名盤集第26集は珍品、アメリカ作品を集めた1枚です。トスカニーニのレパートリーとしてはアメリカのNBC向けのもので、常時レパートリーとして演奏していたものではないと思います。
実際にこれは全て聴衆を入れないセッション録音の様で、録音時期も第二次世界大戦中、多少は戦意高揚の目的もあったのではないかと想像します。

いずれにしても古い録音で、現在では聴き辛いもの。トスカニーニはこんなものも振ったという記録以上のものではないと考えます。トスカニーニ・ファンには叱られるかも知れませんが…。
品番は BVCC-9936 。ジャケットのオリジナル・デザインはグランド・キャニオンを描いたもので、レトロな感じが好ましいですね。

①グローフェ/組曲「大峡谷」
②ガーシュウィン/パリのアメリカ人
③バーバー/弦楽のためのアダージョ
④スーザ/カピタン行進曲
⑤スーザ/星条旗よ永遠なれ
⑥スミス/星条旗

データは以下の通り、②④⑤は同じ日、また③と⑥が同時に収録されています。

①1945年9月10日 カーネギーホール
②1945年5月18日 NBC 8-Hスタジオ
③1942年3月19日 カーネギーホール
④⑤1945年5月18日 NBC 8-Hスタジオ
⑥1942年3月19日 カーネギーホール

①はSPで初出、HMVの DB 6327/30 の品番で4枚8面に収められていました。Fレンジの狭さは致し方なく、第5楽章に登場するウインド・マシーンなどはほとんど聴き取れません。演奏はトスカニーニらしくストレートで真面目なもの。

②も戦時中の録音ながらSPでは発売されず、世に出たのはヴィクターのLPで LM 9020 が最初の様です。この盤のカップリングはプロコフィエフの古典交響曲。
①同様音質はあまり良くありませんが、練習番号61からと62からのイングリッシュ・ホルンにトランペットを追加しているのが聴き取れます。トスカニーニは埋没し勝ちなパートを引き出すためにオーケストレーションに手を入れる(シューマンのラインなど)ことがありましたが、これもその一例でしょう。
全曲の最後、練習番号77の前2小節にガーシュウィンは任意のカット(Optional cut)と書き込んでいますが、トスカニーニはオリジナル通りカットせずに演奏しています。

③はトスカニーニが初演したことで有名。これによって作曲家バーバーは世界的な名声を獲得したのでした。その意味でも貴重な録音で、当盤のハイライト。
これも初出はSPで、HMVの DB 6180 。1枚もの2面に収録されていましたから、一般的にも求め易い音源だったのでしょう。録音の古さを忘れさせる真摯な名演。

④以下は際物で、そもそもWERMはスーザをクラシック音楽の作曲家と認識していません。従ってスーザの項目は無いし、これらの録音の発売状況は全く判りません。
当盤のクレジットによると、④~⑥はいずれもトスカニーニがオーケストレーションしたことになっています。解説にはこの辺の経緯は一切無く、⑥の原曲がジョン・スタフォード・スミスの「天国のアレクレオン」であることが、唯一の情報。

④~⑥は手元に所謂オーケストラ・スコアがありませんが、トスカニーニの編曲は現在普通に聴かれるものと対位法や楽器編成が酷似しています(⑤の派手なピッコロなど)。④は前半が8分の6、後半が4分の2のマーチ。⑤は国歌より有名な2分の2拍子のマーチで、どちらもピアノ譜にある繰り返しは微妙に編成を変えながら実行しています。
一度聴けば充分な録音でしょう。

参照楽譜
①ロビンス
②チャペル
③シャーマー
④⑤ドーヴァー(ピアノ譜)
⑥なし

なお手元にある①②は共に古い出版で、どちらも既に倒産した出版社のもの。現在は他社から新しい版が出ているはずです。

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