今日の1枚(170)

「トスカニーニ・ベスト・セレクション」を順番に聴いてきましたが、第27集と第28集は既にシリーズの初期に取り上げました。オペラ序曲集と管弦楽名曲集ですが、夫々(11)と(12)で紹介しています。
そこで今回は第29集。いよいよオペラ全曲です。トスカニーニが最も得意とするヴェルディの歌劇「椿姫」で、以下の配役。

ヴィオレッタ/リチア・アルバネーゼ Licia Albanese (ソプラノ)
アルフレード/ジャン・ピアース Jan Peerce (テノール)
ジョルジュ・ジェルモン/ロバート・メリル Robert Merril (バリトン)
フローラ/マクシーヌ・ステルマン Maxine Stellman (メゾ・ソプラノ)
ガストーネ子爵/ジョン・ガリス John Garris (テノール)
ドゥフォール男爵/ジョージ・チェハノフスキー George Cehanovsky (バリトン)
ドビニー侯爵/ポール・デニス Paul Dennis (バス)
医者グレンヴィル/アーサー・ニューマン Arthur Newman (バス)
アンニーナ/ヨハン・モアランド Johanne Moreland (ソプラノ)
合唱/NBC合唱団(合唱指揮/ピーター・ウイロウスキー Pter Wihousky )

録音データは、1946年12月1日と8日、NBC放送録音で、NBC8Hスタジオとなっています。聴衆の入った恐らく演奏会形式演奏のライヴで、二日間の収録。演奏会そのものが二度行われたのか、前半と後半を二度に分けて演奏したのかは不明です。
当盤(BVDD-9939/40)は2枚組CDで、1枚目は第1幕と第2幕第1場が、2枚目には第2幕第2場と第3幕が収められています。

このCDは対訳歌詞や歌手についての情報は含まれておらず、あらすじがあるだけ。それも訳者の名が記されているだけで、原文が誰の書いたものかも判りません。従ってこの歌劇を初めて鑑賞する人には薦められません。

歌手に関しては、端役の3人は名前すらクレジットがありません。即ち、第2幕第1場に出るヴィオレッタの召使ジュゼッペ(テノール)と取次者(バス)、第2幕第2場に登場するフローラの召使い(バス)、の3人で、もちろん録音では歌っています。

1946年の録音ですから終戦直後ですが、当時としては中々優れた録音だと思います。少なくとも前回紹介したアメリカ作品集よりは遥かに聴きやすい音質で録られているのが素晴らしいところ。
初出の状況は詳しくは判りませんが、最初は前奏曲やハイライトの形で販売され、全曲セットとしてはHMVのSP、DB 21360/72 の13枚26面で出たものが最初の様です。裕福かつ熱心なファンでなければ買えない代物だったでしょう。

歌手の経歴等については、主役の3人以外は判りませんでした。

アルフレードのピアースについてはベートーヴェンの第9交響曲で紹介済み。(151)

ヴィオレッタのアルバネーゼは1913年生まれ、イタリア人ですが後にアメリカ国籍を取得したソプラノ。まだ亡くなったというニュースは聞いていませんから、恐らく健在なのでしょう。であれば、あと2年で100歳。
ボローニャで行われたイタリア政府主催のコンクールで300人の中から優勝したという経歴。1931年に蝶々さんでスカラ座デビュー、メット・デビューは1940年だったそうです。しかし何と言っても彼女を有名にしたのはトスカニーニに抜擢されたヴィオレッタとミミ。正に当録音こそが彼女の代表作と言えましょう。

ジェルモン役のメリルは、1917年にニューヨークで生まれ、2004年に同じくニューヨークで没したアメリカのバリトン。歌は歌手だった母親から学んだのが手始めで、この録音の前年にメットのオーディションに合格し、その年、正にジェルモンでメット・デビューを果たした人です。
トスカニーニは当然ながら彼のデビューを聴いて自身の録音に選んだのでしょう。実年齢から言えば、主役3人で一番若いのが父親ジェルモンというキャストですね。

演奏はライヴということもあって、トスカニーニの歌声も入っています。有名な第1幕のヴィオレッタのアリアなど、アルバネーゼの声を圧倒するようなトスカニーニの唸り声が聴かれるのは御愛嬌でしょうか。

いくつかカットがありますが、手元のスコア(インターナショナル・ミュージック版)は練習番号も小節数も無い海賊版で、正確な場所を指摘するのは困難です。それでも列記すると、

第1幕では第3曲、ヴィオレッタのシーンとアリアが始まる前、サロンの客たちが帰る場面の音楽の後奏で2小節のカット。
そのヴィオレッタのアリア、最初のシーン(アンダンティーノ)の後半をカット。

第2幕第1場では、冒頭のアルフレードのアリア(第4曲)の後半(即ちアリア全体)をそっくりカットして第5曲の二重唱(第4場、ヴィオレッタとジェルモン)に飛びます。この間の繋ぎとしての2小節はオリジナルには無いもので、恐らくトスカニーニが作曲?したものでしょう。
更にこの幕では第8場、ジェルモンのアリアに続く親子二人の二重唱を大幅にカットし、そのまま場の最後に飛んでしまいます。

第3幕では、第2場。ヴィオレッタがジェルモンの手紙を読んだ後のアリアの後半をそっくりカット。
また最後のヴィオレッタとアルフレードの長い二重唱(第10曲)では、Ah! Gran Dio! で始まる最後の部分を大胆にカットしてフィナーレに続けます。

その他オーケストレーションを変更していると思われる個所もありますが、古い録音のために細部が不明瞭で断言できないものもあります。
例えば第1幕ではオリジナルにある大太鼓を省略しているように聴こえますし、舞台裏のバンダにトライアングルやトスカニーニ特有の弦楽器の追加もあるようです。
また第2幕では、闘牛士の歌に出るタンバリンにもスコアと違う奏法を施しているのではないかと思われる部分もありました。

参照楽譜
インターナショナル・ミュージック・カンパニー No.1004

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