新たなダービー伝説誕生か?

昨日はヨーク競馬場のメイ・ミーティング2日目、注目はダービー・トライアルのダンテ・ステークスですが、その前に。

前日に続いて馬場状態は good 。良馬場と訳したいところですが、日本の所謂「良馬場」とは違います。日本では「パンパンの良馬場」という表現があるように、硬ければ硬いほど良いと見做す風潮があります。
しかしこれは馬にとっては迷惑なことで、馬場が硬ければ脚に負担がかかるのは道理。むしろ湿り気のある柔らか味のある馬場こそ「good」と呼ばれるべきでしょう。我が国では渋った馬場には3段階(稍重→重→不良)の表示があるのに、乾いた馬場は全て「良」一つで表されるのは問題だと思慮しますがどうでしょうか。
英国では good → firm → hard といった区分けがあります。good は敢えて日本語に直せば「稍良」という感覚でしょうか。今年の英国は雨が少なく、各調教師とも馬の仕上げには苦労している様子。その意味でヨークの今開催が good の馬場で行われたことは、馬を管理する身にとってはありがたいことだと思われます。

前置きが長くなりましたが、先ずはミドルトン・ステークス Middleton S (GⅡ、4歳上牝、1マイル2ハロン88ヤード)の回顧から。
近年重きを増している古馬牝馬の中距離戦、今年は8頭が出てきました。11対10の1番人気は、去年このレースで2着しているミッドデイ Midday 。既にGⅠを5勝しているためペナルティーの5ポンドを負担しなければなりませんが、格が克服してくれるだろうという期待からの人気です。

レースはゴドルフィンのサージャー Sajjhaa がややスローで逃げる展開。本命馬と同じチーム(アブッダッラー所有、セシル厩舎)のタイムピース Timepiece が2~3番手の内、そのあとにミッドデイとミュージック・ショウ Music Show が待機。
直線に向かうポイントでサージャーのデットーリがペースを上げて逃げ込みに入ると、他馬はスピードに付いていけない様相。しかし流石はGⅠ馬の貫録、トム・クィーリー騎手の懸命な追い出しにジワジワと脚を伸ばしたミッドデイが、最後は2馬身差を付けて優勝。2着サージャーと3着に追走したタイムピースとの着差は4馬身ありました。ミュージック・ショウが4着。

ミッドデイは今年5歳ですが、これまでシーズン初戦には勝星がありませんでした。本調子に戻るのに少し時間を要するタイプで、去年のこのレースもサリスカ Sariska の2着。今年は予想以上の仕上がりで、夏を迎えてこの馬を破るのには相当な実力の持ち主でなければ適わぬことと見ました。
陣営では、ダービー開催のエプサムで行われるコロネーション・カップ(GⅠ)を目指したい意向です。
現行のミドルトン・ステークスは1997年創設と歴史が浅いためか、意外にもセシル厩舎は初勝利。もちろんクィーリー騎手も初めての栄冠となりました。

さて話題のダンテ・ステークス Dante S (GⅡ、3歳、1マイル2ハロン88ヤード)。前のレース、ミドルトン・ステークスと全く同じコース、同じ距離で行われるダービーへのトライアルです。
2000ギニー終了直後にはフランケル Frankel が試走する計画もあった一戦ですが、結局フランケルはロイヤル・アスコット(1マイルのセント・ジェームス・パレス・ステークス)に回るようで、ダンテには登録すらして来ませんでした。石橋を叩いて引っ返してしまうほど慎重なセシル翁らしい決断ですね。

ダンテ・ステークスは、近年では最もダービーとの関連が深いトライアルと申せましょう。去年ダンテ2着のワークフォース Workforce 、2007年の勝馬オーソライズド Authorized 、2005年の勝馬モティヴェイター Motivator などここからダービーを制した馬が直に思い浮かびます。
他にもダンテ→ダービーのダブルを達成した馬は多く、古くはセント・バディ St. Paddy に始まり、シャラスターニ Shahrastani 、リファレンス・ポイント Reference Point 、エルハーブ Erhaab 、ベニー・ザ・ディップ Benny the Dip 、ノース・ライト North Light など多士済済。今年も注目せざるを得ません。

6頭立て。5対4の1番人気に支持されたのは、オブライエン厩舎が送り込んだセヴィル Seville 。2歳最後のGⅠ戦レーシング・ポスト・トロフィーは2着でしたが、ガリレオ Galileo 産駒で如何にもダービー向きの一頭。ダンテ・スタークスはここ5年で3勝しているオブライエン厩舎の実績も人気の要因でしょう。
このところ英国ではライアン・ムーアが騎乗することの多いオブライエン勢ですが、今日はムーアは本来の主戦であるスタウト厩舎の馬に乗るため、セヴィルにはフランスからクリストフ・スミオンが呼ばれていました。
一方フランケルを温存したヘンリー・セシル厩舎は、ニューバリーのデビュー戦に勝って素質の片鱗を窺わせた秘密兵器ワールド・ドミネーション World Domination にダービーへの期待を託します。これが2番人気。

レースは伏兵ピスコ・サワー Pisco Sour が超スローペースに落として逃げる展開となり、直線で本命セヴィルが外から捉えに掛かります。その時2頭の間をこじ開けるように抜けてきたのが、11対4の3番人気に甘んじていたカールトン・ハウス Carlton House 。鋭く突き抜けると、2着セヴィルを1馬身半引き離していました。
更に2馬身半差で逃げたピスコ・サワーが3着に逃げ粘り、セシル期待のワールド・ドミネーションは4着敗退です。

勝ったカールトン・ハウスは、ライアン・ムーアが主戦騎手を務めるサー・マイケル・スタウト師の管理馬、もちろんムーアとの本来のコンビです。去年の10月にニューバリー競馬場の新馬戦に勝って、これがシーズン・デビュー戦。3戦2勝の成績ですが、ダンテ制覇によって一気にダービーの1番人気に名乗りを上げました。オッズは6対4が主流。
(凱旋門賞に12対1というオッズを出した気の早いブックメーカーもあります)
実はカールトン・ハウスは、エリザベス女王陛下の持ち馬。ロイヤル・カラー(勝負服)の馬がクラシックに出走するだけでも話題ですが、ロイヤル・ウェディングが行われた今年、女王の馬がダービーに先頭でゴールインすれば、これほど出来過ぎたストーリーは無いでしょう。6対4の中には、もちろんそうしたビッグ・ストーリーへの期待が含まれていることは当然です。

スタウト師は、これがダンテ・ステークス6勝目。過去の歴史を振り返ると、1986年シャラスターニ Shahrastani 、1992年アルナスル・アルワシーク Alnasr Alwasheek 、2001年ディルシャーン Dilshaan 、2004年ノース・ライト North Light 、2008年タータン・べアラー Tartan Bearer と来て、1986年と2004年にダービー制覇も成し遂げたことは前述の通り。
今年もカールトン・ハウスで制し、ダンテ/ダービー・ダブルの確率を5割とするかどうか。本番まで、エリザベス女王でなくとも気の揉める3週間となるでしょう。

気になるのは勝時計。ダンテは2分13秒49で決着しましたが、一つ前の同コース同距離で行われたミドルトンは2分10秒05。何と3秒半以上も遅いタイムなのですね。
ペースが極端にスローだったこともありますが、これをどう読むか。
未だ経験の浅いカールトン・ハウスはゲートインも手古摺ったようですし、スタート直後は馬が口を割って引っ掛かり、ムーア騎手が宥めるのに苦労しているシーンも映し出されていました。期待半分、不安半分のダービー本命馬登場というのが正直な感想です。

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