第593回・日本フィル定期演奏会

“日本フィル、再上陸”というキャッチコピーのコンサートです。東京オペラシティでの半年シーズンを終え、シーズン制を秋開始、曜日もこれまでの木・金から金・土に変更した最初の会です。
これまで金曜会員でしたが、今回から土曜に変更、心なしか休日のゆったりした空気に包まれていました。会員数が増えたかというと必ずしもそのようには感じられず、コバケン氏水準に比しても少ないような感じ。チョッと心配です。
この会は、

第593回東京定期 サントリーホール
ヴェルディ/「ルイザ・ミラー」序曲
ヴェルディ/「仮面舞踏会」今度の航海は無事だろうか
ドニゼッティ/「愛の妙薬」人知れぬ涙
プッチーニ/菊の花
マスネ/「ウェルテル」春風よ、なぜ私を目覚ますのか
プッチーニ/「トスカ」星は光りぬ
~休憩~
ベートーヴェン/交響曲第3番「英雄」
指揮/小林研一郎
独唱/佐野成宏
ゲスト・コンサートマスター/豊田弓乃

というもの。定期にしては変わったプログラム。意図は「再上陸」を楽しく祝おう、ということのようです。実際、とても楽しいコンサートになりました。
場内アナウンスがあって、出演者の希望により演奏曲目の順序が変更される由。こうした場合はチラシで案内されるのが普通ですが、急遽決まったようですね。上に書いた順に演奏されました。当初発表は序曲の後ドニゼッティとマスネ、菊を挟んでヴェルディ、プッチーニだったのです。

序曲を終えたあと直ぐに佐野氏登場、小林マエストロが曲名を告げながら歌われていきました。体調の都合、ということでしたが、佐野さん、絶好調と聴きました。恐らく前日のコンサートが夜、今日がマチネー(午後2時スタート)ということで声の負担のバランスを考えたのでしょうか。

前半のプログラムはコバケンさんとしては珍しい部類でしょうが、全て暗譜で振りました。ヴェルディの序曲も迫力に満ち、最初から喚声がかかっています。
佐野成宏は、アマチュア合唱団で歌っている時に小林マエストロが見出し、プロとしての道を薦めた逸材。コバケンの期待に応えてわが国の代表的なテノールに成長した佐野も見事です。ですから呼吸はピッタリ、次々とテナーの名曲を歌っていきます。
仮面舞踏会では先日の福井リッカルドと佐野リッカルドの比較が面白かったですね。声の美しさ、という点では佐野くんに一票を投じたいほど。もちろんオペラはそう単純なものではありませんが。

間に置かれた「菊の花」、これは素晴らしかった。弦楽四重奏でも演奏されるように、弦4部、コントラバスは入りません。
コバケンさんがチョッと暗示していた通り、「星は光りぬ」にそのまま通じ、ベートーヴェンの葬送行進曲とも繋がる葬送曲。美しい悲しみに、会場は水を打ったような静けさに支配されました。日本フィルの弦合奏、ホントに素晴らしかった。

残り2曲、ウェルテルとカヴァラドッシの絶唱に時間の経つのも忘れます。え、もう前半おしまい?
客席に絶妙なタイミングで声を掛ける熟年紳士がいて、まさかそれに乗せられたわけでもないでしょうが、アンコールが急遽?歌われました。
舞台下手に「準備」されたピアノにマエストロが座り、歌われたのは「カタリ」。これ、オーケストラの定期演奏会? と思わず口をついてしまうほど、いつもとはガラッと変わったムードの内に前半を終えました。

イャー、佐野君良かったねぇ。彼こそ日本のパヴァロッティ。その美声は、勉強して獲得したものではなく、天性のものを勉強で磨き上げた性質の声でしょう。バックは日本のストコフスキーでしょ。正に値弐千両のコンサートです。

さて後半。ベートーヴェンですがね、チョッと書き難いですね。
流石に客席にはコバケン・ファンが待ち構えていました。最後の喚声はいつも以上のように感じられましたね。
最近の常識的なスリム・ベートーヴェンとは全く別の世界です。オーケストラを思い切り鳴らし、遠慮する気配もありません。私は第2楽章のテンポについて行けませんでしたが、それこそがコバケンの魅力なんでしょう。

しかしその音楽に哲学的な重みがあるかというと、それは疑問ですね。あくまでも生理的な快感が前面に出てくる。
例えば第4楽章。第7変奏になるのでしょうか、ホルンが強奏で主題を吹くところがありますが、ここでホルンに楽器を高く掲げるように指示するのです。マーラーのようにラッパを客席に向けたりはしませんが、その一歩手前。
ここなどは視覚的効果が優先していて、作品に備わった必然性のようには感じられません。それで「日本のストコフスキー」なんて言ったりするんですけど、コバケン・ファンに怒られそお。

それでも日本フィルのパワー炸裂。コンサートとしては大いに楽しめた回でした。

 

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