両雄対決の行方
昨日のサンダウン競馬場、注目のエクリプス・ステークス Eclipse S (GⅠ、3歳上、1マイル2ハロン7ヤード)が行われました。俗に言う「エクリプス開催」の二日目、最終日ですね。
好天が続いて馬場状態は good to firm 、出走馬は僅かに5頭。数では寂しく感じられますが、内容は極めて濃いもの。競馬をギャンブルの対象としか考えていない人たちには何ともつまらないレースでしょうが、競馬は単なる賭け事ではありません。
レース前の話題は、去年のダービー/凱旋門賞を制した英雄ワークフォース Workforce と、オブライエン厩舎に転じてきた豪州の怪物ソー・ユー・シンク So You Think の対決。両雄対決を制するのはどちらか、というのがここ一週間の専らの話題でした。
ロイヤル・アスコット(プリンス・オブ・ウェールズ・ステークス)では早仕掛け、軽過ぎた調整などが原因でリワイルディンク Rewilding に屈したソー・ユー・シンクでしたが、ここは万全と見做されて4対6の1番人気。しかし英国競馬ファンの心情ではワークフォースに勝って欲しいという期待(7対4、2番人気)が上回っていたのも事実のようです。
これまでソー・ユー・シンクとコンビを組んできたライアン・ムーア騎手は、主戦であるスタウト厩舎のワークフォースに騎乗。替ってソー・ユー・シンクにはシーマス・ヘファーナンが跨ります。
更に日本と香港のファンの度肝を抜いたオークス馬スノー・フェアリー Snow Fairy も参戦。彼女は今期初戦に予定していたプリティー・ポリー・ステークスを重馬場を理由にレース直前で取り消したため、これがシーズン・デビュー。本来の狙いが秋競馬にあるのは明らかでしたから、ここは10対1と薄目の人気でした。
結果は言うことの無い両雄対決。他に何とも表現できない類の内容でした。
ワークフォースのペースメーカーを務めるコンフロント Confront はスタートが一番悪く後手を踏みますが、直ぐにジミー・フォーチュンが扱いて先頭を奪います。ワークフォースはすんなり2番手。相手はこれしかいないとばかりに、ソー・ユー・シンクはピタリと3番手マーク。去年のエクリプス2着馬スラーイ・プートラ Sri Putra とスノー・フェアリーが最後方の展開で進みます。
右回りのサンダウン、緩やかにカーヴしながら直線に向かいますが、コンフロントは内に馬1頭分を空けながらレースを引っ張り、その1頭分の内を自然にワークフォースが通って先頭に立ち直線へ。
一旦はリードを広げたワークフォースでしたが、終始マークしていたソー・ユー・シンクが最後の1ハロンで外に出してスパート。ここからは両雄のスリリングな叩き合いになり、最後は外から追い上げたソー・ユー・シンクの末脚が半馬身勝っていました。3着は5馬身離されてスライ・プートラが追い込み、スノー・フェアリーは4着。最後は馬に負担を掛けないよう、ムルタ騎手は抑え気味にゴールしていました。
結果を見れば、やはりエイダン・オブライエン師が言うとおり、ソー・ユー・シンクのアスコット敗戦は調整過程が万全でなかったためでしょう。これが本来のソー・ユー・シンク。2000メートルのスタミナとマイラーのスピードを兼ね備えた名馬と断言して間違いありますまい。当然ながら1マイル半は射程圏内だと思慮します。
キング・ジョージには9対4、凱旋門賞には4対1のオッズに上がりましたが、当面のスケジュールは未定。それでも今年の凱旋門賞の中心になることは間違いない処でしょうか。
今開催のサンダウンでは、第1レースにG戦のスプリント・ステークス Sprint S (GⅢ、3歳上、5ハロン6ヤード)が行われています。10頭立て。4対1の1番人気には実績から6歳のキングスゲイト・ネイティヴ Kingsgate Native が挙げられていましたが、今季は未だ勝ち星が無く、今回初めて遮眼帯を装着してきたのも気になります。
マイケル・スタウト師の懸念が当たったのか、本命馬はムーア騎乗とのコンビも今回は不発で6着敗退。
替って新たに短距離界に名乗りを上げたのは、11対2に支持された3歳馬のナイト・カーネーション Night Carnation 。逃げるビヨンド・ディザイアー Beyond Desire をゴール前で捉え、そのまま1馬身4分の3差を付ける完勝でした。更に半馬身差3着にヒューミドー Humidor が追い込んで3着。
ナイト・カーネーションは前走(同じサンダウン、同じ距離のリステッド戦)こそ4着でしたが、これで今シーズンは4戦3勝。パターン・レースは初挑戦での初勝利となり、短距離界の新星として注目されます。
管理するアンドリュー・ホールディング師によれば、この後夏場は休養に充て、グッドウッドもナンソープ・ステークスも欠場。秋のアベイ・ド・ロンシャン賞を目標にする由。
幸先良く第1レースを制したホールディング厩舎、このあと第2、第4レースも制してハットトリックを達成しました。ナイト・カーネーションに騎乗したジミー・フォーチュン騎手は、第4レースと合わせてダブル達成。
ところで土曜日はヘイドック競馬場でもG戦が一鞍行われました。ランカシャー・オークス Lancashire Oaks (GⅡ、3歳上牝、1マイル3ハロン200ヤード)。オークスと言っても古馬にも開放された一戦です。
こちらも馬場状態は good to firm 。
7頭が出走、10対11の1番人気には、3連勝のあとリステッド戦でも2着した4歳馬ヴィータ・ノーヴァ Vita Nova が支持されていました。しかしヴィータ・ノーヴァは直線最後の追い比べで鞍づれを発生、鞍上トム・クィーリーは危うく落馬するところでしたが、何とか馬を立て直して2着に入りました。この状態での2着は健闘と言うべきでしょう。
いわば恵まれた形で優勝を攫ったのは、9対2のガートルード・ベル Gertrude Bell 。ヴィータ・ノーヴァとは1馬身4分の1差で、3着は首差で3歳馬のドーカス・レーン Dorcas Lane の順。
ジョン・ゴスデン厩舎、ウイリアム・ビュイック騎乗の同馬は、これまでチェシャー・オークスを含めリステッド戦で2勝していた馬。去年はオークスで5着した実績もあり、パターン・レースは初勝利となります。
今回は逃げるポリーズ・マーク Polly’s Mark をゴール前2ハロンで捉えての優勝。本命馬のアクシデントに恵まれたとは言え、堂々のパターン・ウイナー入りを果たしました。
さて昨日はフランスのロンシャン競馬場でも2鞍のG戦が行われています。
最初はダフニス賞 Prix Daphnis (GⅢ、3歳、1800メートル)。キャリアの比較的浅い7頭が出走、イーヴンの1番人気には今季デビューで、前走サン=クルー競馬場のリステッド戦に勝ったアガ・カーンのヴァリール Valiyr が選ばれていました。
しかし優勝は、同じアガ・カーンの勝負服、同じアラン・ド・ロワイヤ=デュプレ厩舎のジヤーリド Ziyarid の方でした。何のことは無い逃げ切り勝ち。首差2着がヴァリールで、更に2馬身半差でアブソリュートリー・イエス Absolutely Yes が3着。
一見するとペースメーカーがそのまま逃げ切ったようにも見えますが、デュプレ師としては単なるペースメーカーとは考えていなかったようです。
パリの馬券では同厩舎、同馬主ということで本命馬券も「当たり」扱いですが、個々には16対1の穴馬券になりました。騎手は本命にはクリストフ・ルメール、勝馬には同馬に毎朝調教を付けている所属のミカエル・ポアリエーという余り馴染の無い名前。恐らくG初勝利だと思われます。
ジヤーリドも、同厩のヴァリール同様に前走リステッド戦に勝ったばかり。但しこちらはマルセイユ競馬場のリステッド戦。人気の盲点だったかも知れませんね。
最後はポルト・マイヨー賞 Prix de la Porte Maillot (GⅢ、3歳上、1400メートル)。3歳馬と古馬混合の7ハロン戦で、11頭が出走してきました。
こちらは6対5の1番人気に支持されたムーンライト・クラウド Moonlight Cloud が順当に勝って期待に応えています。スタート直後は2番手でしたが、直ぐに先頭を奪い、そのまま持ち前のスピードで押し切りました。2着は頭差でアフリカン・ストーリー African Story が追い込み、半馬身差3着はエヴァポレーション Evaporation 。かつての短距離王マルシャン・ドール Marchant d’Or (以前はヘッド師が管理していました)は4着まで。
フレディ・ヘッド厩舎、ティエリー・ジャルネ騎乗のムーンライト・クラウドは、今年の2000ギニーで1番人気ながら7着に敗退していた3歳馬。前走のパレ・ロワイヤル賞も2着でしたが、7ハロン戦はシーズン初戦のアンプルーダンス賞(GⅢ)に続いて2勝目。1マイルより1ハロン短いこの距離での適性が明らかになったようです。
ヘッド厩舎には同じ距離でゴールディコヴァ Goldikova というチャンピオンがいますね。秋の大一番フォレ賞で両馬を対決させるのか、ヘッド師の決断を待ちましょう。
フォレ賞に向かう前に、ムーンライト・クラウドはドーヴィルでモーリス・ド・ギースト賞でその真価を問われるでしょう。そこをクリヤーすれば、本番では寮馬対決が見られるかも・・・。
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